Sato Ryuichiro

Sato Ryuichiro

Articles (17)

東京のベストパブリックアート

東京のベストパブリックアート

タイムアウト東京 > カルチャー > 東京のベストパブリックアート 無数の美術館やギャラリーが存在し、常に多様な展覧会が開かれている東京。海外の芸術愛好家にとってもアジアトップクラスの目的地だ。しかし、貴重な展示会や美術館は料金がかさんでしまうのも事実。 そんなときは、東京の街を散策してみよう。著名な芸術家による傑作が、野外の至る所で鑑賞できる。特におすすめのスポットを紹介していく。
東京近郊の美術館20選

東京近郊の美術館20選

タイムアウト東京 > Things To Do > 東京近郊の美術館20選 移動の自粛も解除されたため、連休には遠くに出かけたいと思う向きも多いだろう。東京近郊の美術館にはそれぞれ独自のコレクションや建築などの見どころがある。 ここでは、60点以上の重要文化財を有する私立美術館、今では入手の難しいであろうロスコの名品をそろえたコレクション、隈研吾の世界を体験できる美術館建築などを紹介する。 関連記事『東京近郊の変わった博物館20選』『東京近郊のグランピング施設17選』
東京、ベストギャラリー29選

東京、ベストギャラリー29選

タイムアウト東京 > アート&カルチャー > 東京、ベストギャラリー29選 東京には美術館だけでなく、数多くのギャラリーが点在する。中には、ガゴシアンやペースと並んで世界的に名声を博しているヴェニューから、シュルレアリスムなど極めて狭いジャンルを扱うギャラリーまで、その種類は多岐にわたる。 ただ一つ言えるのは、いくつかのギャラリーを見ていくと、そのヴェニューが好むアーティストの傾向などが分かるようになることだ。言い換えれば、自分が好きなアーティストがいれば、そうした話題を共有できる場所が見つかるということでもある。 本記事では、そうしたリサーチに役立つような東京のベストギャラリーを紹介する。ぜひ役立ててほしい。  
車いす目線で考える 第35回:不便を便利にする製品づくり

車いす目線で考える 第35回:不便を便利にする製品づくり

タイムアウト東京 >  Open Tokyo > 車いす目線で考える >  車いす目線で考える 第35回:不便を便利にする製品づくり アメリカ大リーグのロサンゼルス・エンゼルスに所属する選手、大谷翔平が、昨シーズン最も活躍した選手に贈られるMVPを満票で受賞した。このニュースは日米だけでなく、世界中のファンに大きなインパクトをもたらし、野球界は大いに盛り上がった。 世界120以上の国と地域で親しまれる野球だが、審判が判定を示す「セーフ」や「アウト」のジェスチャーが、一人の聴覚障害者の困難さを解決するために生まれたものであったことを知っているだろうか。きっかけを作ったのは、幼少期に髄膜(ずいまく)炎で聴覚障害となったウィリアム・ホイ。通算2000本安打、600近い盗塁を記録した、有名なメジャーリーガーだ。 「セーフ」や「アウト」など、このなじみのジェスチャーは、大歓声の中で音をキャッチできなくても見ればすぐに理解できるし、遠く離れた場所から試合を観戦する人にも伝わる。ホイは、野球をプレーする上で障害と感じていたものをなくすことによって、不可能を可能にした。 それが、今ではこうしたジェスチャーが我々の日常生活のコミュニケーションで、ごく自然に使われるものにまでなっている。実は、電話の発明にも、グラハム・ベルが聴覚障害の妻のために補聴器を作る過程で発見した、声を電気信号に変える技術が応用されている。 ジェスチャーや電話に限らず、このように障害を起点に生み出されたものは、世の中に多く存在している。例えば、ライター。マッチで火をつけるには両手が必要になるが、戦争で片腕をなくした兵士でも片手で たばこに火をつけられるようにと考えて開発された。 次にカーディガン。当時は頭からかぶるタイプのセーターしかなかったの対して、セーターを前開きにしてボタンで留めることで、負傷兵が軍服の上からでも素早く暖を取れるようにと工夫されたものだ。 温水洗浄便座は、日本での普及率が80%を超えているが、元々は、アメリカの会社アメリカン・ビデが、医療や福祉用として主に痔の患者向けに作っていた。そのため、当初一般の人は使用を避けていたが、今では暮らしを豊かにしてくれているものになっている。 ここで挙げた3つの製品に対して、ネガティブなイメージを持つ人はほとんどいないだろう。むしろ、ジッポライターはコレクタブルグッズとして認知されているし、カーディガンはファッションとして、そして温水洗浄便座は訪日外国人から大人気だ。どれも日常にすっかり溶け込んだポジティブな商品であるといえる。 ここ数年で「障害は社会の側にある」という考え方が浸透してきたおかげで、「不可能(使えない)を可能に(使える)」「不便(使いづらい)を便利(使いやすい)に」という着眼で製品開発することが注目を受けてきている。 中でも洗濯用洗剤の『アタックZERO』は、優れた商品だと思う。ワンハンドプッシュと呼ばれる、片手でプッシュするだけで必要な分量の洗剤を出すことのできる設計は、洗濯時に何かしらの障害を感じていた人にとって、革新的だった。握力の弱くなってしまった高齢者や手にまひのある人や片腕の人のほか、特に視覚障害者からは大好評だった。 SNS上では「今まで計量カップから洗剤があふれてしまうことがあった」「なんとなく感覚で洗剤を入れていた」、弱視の人からは「計量の細かい目盛りが見えづらくて、時間がかかっていたという不便さを見事に解消してくれた」との声が上がったのだ。 この商品を開発した花王は開発段階で、高齢者や視覚障害者、障害に
コロナ禍が問い直す文化の本質的価値

コロナ禍が問い直す文化の本質的価値

タイムアウト東京 > カルチャー > ニューノーマル、新しい文化政策 第1回 吉本光宏 近頃、ミュージアムやシアター、ホールのような施設だけでなく街中をはじめ、福祉や教育、ビジネスの現場でも芸術や文化的な活動に出合うことが増えてきた。何気なく触れてきたこれらのアクションの背景はどうなっているのだろうか。 ここ20年ほどの間に、文化や芸術は芸術性の追求などの面だけではなく、社会課題と向き合うことが増えてきた。文化芸術の立ち位置の更新を踏まえ、2017年には基幹ともいえる法律『文化芸術振興基本法』が『文化芸術基本法』に改正され、文化政策も大きな転換点を迎えている。 本特集では、さまざまな社会領域を連携させていこうとする文化政策の大きな流れを知り、その動きを先取りしてきた現場の取組みから学ぶことを目的とする。そしてコロナ禍の現実からどんな未来を想像し、今後の社会づくりやビジネスにどう展開していくのか。アートプロデューサー、森隆一郎(合同会社渚と 代表)のディレクションの下で、「新しい文化政策」を軸に「ニューノーマル」を考えていきたい。第1回はニッセイ基礎研究所研究理事の吉本光宏が語ってくれた。  
今週末行きたいギャラリー展示10選

今週末行きたいギャラリー展示10選

東京のアートシーンで欠かせないのはギャラリーだろう。アーティストは星の数ほどいるが、定評あるギャラリーは質の高い作品を選んで見せてくれるので、そこから美術史上意味のあるアーティストや現在のアートの潮流の一端を垣間見ることさえできる。 今回は、ビーズ刺しゅうで知られる酒井佐和子、多くの美術団体を結成してアート界をけん引した山口薫、90歳近くになってもなお精力的に活動する版画家の浜田浄などの展示を紹介する。多くが今週末で会期数量となる展示なので、興味を持った展示があれば訪れてみては。
シルバーウィークに楽しめる展示6選

シルバーウィークに楽しめる展示6選

今年のシルバーウィークは4日間。この連休中は美術館やギャラリーで過ごしてはどうだろうか。アートを見るとき、じっくり時間をかけて理解を深められる作品もあれば、すぐに通り過ぎてしまう作品もあるだろう。見方は人それぞれだが、時間をかければ違った見方ができることもある。 今回は、そんな時間をかけて楽しみたい展示をピックアップ。2会場で65組ものアーティストの作品を展示する『ヨコハマトリエンナーレ』、会期変更になった『KYOTOGRAPHIE』、会場の雰囲気と合わせてゆっくり過ごしたい『神宮の杜芸術祝祭』などを紹介する。 
今週見るべき浮世絵の展示6選

今週見るべき浮世絵の展示6選

今年は浮世絵の展覧会が花盛りだ。すでに終わってしまったものを含めれば、その数は10をくだらないだろう。このジャンルはそれほどに人気があるのだ。 今回は、葛飾北斎や月岡芳年のほか、食に焦点を当てた展示や明治以降に花開いた浮世絵の表現を堪能できる展示などを紹介する。今年開催される浮世絵展示の中でも、比較的小規模ながら誠実なキュレーションが期待できる展示を紹介する。
どこにもない場所を見せてくれる展示7選

どこにもない場所を見せてくれる展示7選

「どこにもない場所」。こういった場所ほど想像力をかき立てられる場はないだろう。『新世紀エヴァンゲリオン』の第2新東京市やレンズを通して眺められる被写体なども、想像できても実際にはない何かであると言えるかもしれない。極言すれば、実際に目にしているのは単なる絵の具や光や機器などに過ぎないのだから。 しかし、そこには常に想像力を働かせて楽しむ余地が残されている。それは、写真であったり、描くこと自体を生きた結果生まれた独自の作品であったり、クレーの色彩や線出会ったりするだろう。今回は、そんなどこにもない場所に連れて行ってくれる、想像力をかき立てられる展示を紹介する。
この夏行くべきアートイベント

この夏行くべきアートイベント

タイムアウト東京 > アート&カルチャー > 東京で行くべきアートイベント 東京のアートシーンは多様だ。見る側のニーズもそれ以上にさまざまだ。だから、自分が好きなアートに巡り合うのは簡単なようで難しい。何も知らずにアートに触れ、その虜(とりこ)となったり、分かり合えないまま破局を迎えた人たちはいったいどれほどいたのだろうか。不用意に近づいて石灰化するナトロン湖のように危険で魅力的なアート界をうまく泳いでいくためには、何かしらの指針が必要なときもあるだろう。 ここでは、現在東京都内で開催されている多様な展示をテーマに沿って紹介する。今回は、近寄ってみることで作品の真価を理解できる展示やハシゴして理解を深められる展示など。 今年のお盆期間は遠方への旅行を控えるように求められているが、都内の展示をじっくり巡ってみてはどうだろうか。
ハシゴしたい展示4選

ハシゴしたい展示4選

アーティストを知ることは作品を見ることと一見同じようだが、実は違う。作品はその作品だけで鑑賞に耐えうることもあるが、作品を数多く見なければ作り手であるアーティストの特徴は見えてこないだろう。もちろん、その逆もあり得るし、結局は両者は分かち難く結び付いているのだから。 だからこそ複数の展示を見ておくことは意味がある。現在、鴻池朋子と森山大道の展示がそれぞれ複数開催中だ。今回は、この二人のアーティストをより深く知りたい人のために展示を選んでみた。 入場制限などを設けている場合もあるので各公式サイトを事前に確認してから訪れてほしい。
東京の街巡りをしたくなる展示4選

東京の街巡りをしたくなる展示4選

アートが好きな人の多くは、アートだけではなく、歴史や場所といった具体的なものから言説、眼差しなどの形のないものまで、それを取り巻くさまざまな要素にも関心があることだろう。アートを見た後はその知見をさまざまな方面に広めたくなるだろうし、出かけたくもなる。 今回は「東京」というトポスに焦点を当てて、東京という街を巡ってみたくなる展示を紹介する。銭湯、マンガ、江戸の歴史などの展示と、その冒頭にあるリンク先の記事と合わせて東京を巡ってみてはどうだろうか。

News (105)

戦後日本を代表するアーティスト、中西夏之の回顧展が六本木で開催中

戦後日本を代表するアーティスト、中西夏之の回顧展が六本木で開催中

六本木の「スカイ ピラミデ(SCAI PIRAMIDE)」で、戦後日本を代表するアーティストの一人、中西夏之(1934〜2016年)の展覧会「中西夏之:1962〜2011」が2024年6月22日(土)から9月14日(土)まで開催中だ。2016年に惜しくも逝去した中西の、半世紀にわたる足跡を振り返る回顧展という位置付けだ。 中西は、高松次郎、赤瀬川原平と1963年に結成した「ハイ・レッドセンター」としての活動や、土方巽(ひじかた・たつみ)作品での舞台装置など、特定のジャンルにとどまらない多様なキャリアを展開してきた。2017年の個展以来のまとまった展覧会となる本展では、1960年代の著名な「コンパクト・オブジェ」から始まり、絵画と鑑賞者を包摂する空間構造を考察した1980年代の代表的なシリーズ「弓形」や「ℓ字型」、2000年代以降のペインティングまで、未発表作品を含む約10点を展示する。 本展に際して、多摩美術大学教授の光田ゆりは、中西のことを「連作のかたちで制作・発表してきた作家」と評している。その連作の在り方は「ひとつの主旋律がフーガのように反復、変奏されつつあみ出される流れに」乗ったものであり、「それぞれのカンバスに新しく実験を加え展開していった」という。 著名な作家の場合、その名を高めることになったいくつかの作品にばかり目を向けがちだ。例えば、中西は山手線でのハプニングから始まった「コンパクト・オブジェ」や、ハイ・レッドセンターとしての活動が非常によく知られている。しかし、こうした若い時期の著名な作品だけではなく、連作という視点で中西の活動を眺めてみるのも面白い。 光田いわく、その作品はモチーフを明するタイトルではなく、「絵と向かい合う自分は、地上のどこに位置を持つか」、「左辺右辺からせめぎあう絵の中央とは」といった、中西以前には問われることがなかった問いが動機になっているという。せっかくの生涯にわたる活動を概観できる機会。複数の作品を比較しながら、中西がどのような問いを作品に投げかけたのかを考えてみてもいいかもしれない。 8月10日(土)〜18日(日)は夏期休暇となる。展示の詳細については、公式ウェブサイトを参照してほしい。 関連記事 『「ART OSAKA」が今年も開催、期間中は北加賀屋のアート拠点を一般公開』 『誰もが作品に参加し、考え、楽しめる「日常アップデート」展が渋谷で開催中』 『ついに開幕、カルティエと日本 半世紀のあゆみ 「結 MUSUBI」展をレポート』 『草間彌生の「カボチャ」がロンドンのケンジントン ガーデンズに出現』 『東京、6月に行くべき無料のアート展7選』 東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
バイオリンの名器「ストラディバリウス」に魅せられた写真家の追悼展が開催中

バイオリンの名器「ストラディバリウス」に魅せられた写真家の追悼展が開催中

バイオリンの名器「ストラディヴァリウス(Stradivarius)」に魅せられた写真家、横山進一の追悼展「We Love Stradivari 追悼 横山進一写真展」が「神奈川県民ホールギャラリー」で開催されている。会期は2024年6月16日(日)まで。 横山進一(1947〜2023年)は、ストラディヴァリウスの撮影でつとに知られるが、ストラディヴァリウス自体の研究や楽器製作も手がけたユニークな人物だ。当初は日本とアメリカを中心に、楽器に限らず幅広い被写体を対象に商業写真家として活動を始めるが、1970年代からストラディヴァリウスを撮影するようになったという。 ヤッシャ・ハイフェッツ(Yasha Ruvimovich Heifetz)やニコロ・パガニーニ(Niccolò Paganini)らが演奏に使ったストラディヴァリウスは、17世紀イタリアの楽器製作者、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari)が中心となって手がけたバイオリンを指し、現在およそ600挺(ちょう)が確認される。横山は世界中を巡り、そのうち100挺以上を実見、撮影したという。 さらには、アメリカの「スミソニアン博物館」やイングランドの「アシュモリアン博物館」などとともに、装飾楽器についての研究を発表したという点も横山の見逃せない功績だ。「The classic bowed stringed instruments from the Smithsonian Institution」(学研、1986年)、「ストラディヴァリウス」(アスキー新書、2008年)などを上梓(じょうし)している。 その写真作品は、これまでにも東京や大阪、ワシントンD.C.などで展示されており、今回の展示では、その中から厳選した作品を中心に取り上げ、写真家としての横山のキャリアを振り返る。また、横山は楽器撮影だけでなく自らも楽器の製作を手がけており、その楽器を愛用する演奏家も少なくない。ストラディヴァリウス、ひいては広く楽器を愛した写真家の足跡をたどってみてほしい。 関連記事 『東京、6月から7月に行くべきアート展』 『人生を「書」に捧げる石川九楊、待望の大規模個展がいよいよ開幕』 『板橋区立美術館で無料で公開中、洋風画の大規模なコレクション』 『中村勘九郎が紫テント初出演、亡き唐十郎の世界への思い語る』 『回答者にはAmazonギフトカードをプレゼント、タイムアウト東京読者アンケート2024』 東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
板橋区立美術館で無料で公開中、洋風画の大規模なコレクション

板橋区立美術館で無料で公開中、洋風画の大規模なコレクション

「洋風画」の大規模な展覧会が、「板橋区立美術館」で6月16日(日)まで無料で開催されている。今回展示されるのは、同館に寄託されている「歸空庵(きくうあん)コレクション」という洋風画の大規模なコレクション。近世初期に描かれた西洋風俗画や秋田蘭画の名品から、大らかで民衆的な作品までが含まれている。2004年に開催された「日本洋風画史展」での公開以来、実に19年ぶりの展示となり、本展覧会では新たに寄託された作品も観ることができる。 そもそも「洋風画」とは、江戸時代以前を中心に制作された日本絵画で西洋風の絵画技法を用いた作例のことを指す。その作例は2つの時期、すなわち桃山時代から禁教までと江戸時代中期以降という時期に大きく分けられ、「歸空庵コレクション」は後者の作品が中心だという。とはいえ、前者の時期の重要な作品も収蔵している。その一つが、12枚の「西洋風俗図」だ。 桃山時代のキリスト教伝来に伴い、ヨーロッパを中心とした宗教画が流入した。キリスト教が伝播(でんぱ)するにつれて、そうした作品を模倣してイエズス会の学舎などで日本人も宗教画を手がけるようになる。しかし、禁教で宗教画の制作が困難になると、代わりに風俗や戦闘などを主題に描くようになったという。「西洋風俗図」は、そうしたコンテクストに位置付けられる。 Photo: Ryuichiro Sato作者不詳《西洋風俗図》(画面左が《読書をする男性》)、紙本著色、桃山〜江戸時代(17世紀)、歸空庵コレクション 一見世俗的な場面のようでも、そこには宗教画の図像の伝統が踏まえられている。12枚のうちの「読書をする男性」は、「パトモス島の聖ヨハネ」や「書斎の聖ヒエロニムス」などの宗教図像を想起させる。日本人の絵師が描きながら、そうした伝統を感じさせるのは、当時の絵師の技量の高さ、典拠への忠実さがあったからだろう。 江戸中期以降の作品で見逃せないのは、担当学芸員の植松有希おすすめの司馬江漢(しば・こうかん)「西洋風景人物図屏風」だ。当初、狩野派を学んだ司馬だが、平賀源内と接点を持ったことで、西洋の自然科学に関心を持つようになり、油彩や銅版画、地図なども制作している。本作品は、ヤン・ラウケン(Jan Luyken)父子による銅版画集「人の営み(Het Menselyk Bedryf)」(1694年)に構図や人物を負っている。 Photo: Ryuichiro Sato司馬江漢《西洋風景人物図屏風》、紙本著色、江戸時代(18〜19世紀)、歸空庵コレクション 植松は、「初公開ではないが、新規に寄託された作品。司馬江漢らしい軽やかな筆使いで洋書から引用し、端的に遠近法なども表現している。当時から屏風(びょうぶ)として用いられていたので大きく、見応えもある」と語る。 Photo: Ryuichiro Sato司馬江漢《月下柴門美人図》、絹本著色、江戸時代(18世紀)、板橋区立美術館蔵 同じく司馬による「月下柴門美人図(げっかさいもんびじんず)」は、洋風画に本格的に取り組む以前に学んだ、狩野派や浮世絵師の鈴木春信の影響をむしろ感じさせる。2つの作品の技法や、司馬が描きたい効果や題材を想像しながら観ると面白いだろう。 Photo: Ryuichiro Sato石川孟高《西洋婦人図》、絹本墨画、江戸時代(19世紀)、歸空庵コレクション 司馬作品で見たように、洋風画ではどうしても巧拙を比べたり、違いを見つけたくなるもの。その意味で、石川孟高(いしかわ・もうこう)「西洋婦人図」は、ぜひ見ておきたい作品だ。洋風画を描いた
戦争の悲惨さを描くゴヤ「戦争の惨禍」、全場面を初の一挙公開

戦争の悲惨さを描くゴヤ「戦争の惨禍」、全場面を初の一挙公開

19世紀スペインを代表する画家、フランシスコ・デ・ゴヤ(1746〜1828年)の版画「戦争の惨禍」全点を公開する展覧会「真理はよみがえるだろうか:ゴヤ〈戦争の惨禍〉全場面」が、「国立西洋美術館」で2024年5月26日(日)まで開催されている。 ゴヤは、18世紀から19世紀にかけて活動したスペインの画家。代表作に「カルロス4世の家族」「裸のマハ」「着衣のマハ」などがある。版画も数多く制作しており、今回の展示では、版画集「戦争の惨禍」の全場面を公開する。 画像提供:国立西洋美術館フランシスコ・デ・ゴヤ〈戦争の惨禍〉より7番《何と勇敢な!》1810-14年ごろ エッチング、アクアティント、ドライポイント、エングレーヴィング、バーニッシャー/紙 国立西洋美術館 繰り返される暴挙や愚行について版画集から見つめ直す 「戦争の惨禍」は、1810〜20年頃に制作されたと考えられているが、ゴヤの存命中には公開されず、没後35年を経て1863年に80点からなる初版が出版された。同館は1993年度にその初版を収蔵し、2017年度には、初版には含まれなかった2点の作品も収蔵。しかし、半数近い37点はこれまでに展示したことがなかったという。本展示が、初めて連作全点と連作外の2点を合わせた計82点を紹介する機会となる。 「戦争の惨禍」で題材にしているのは、ナポレオンがスペインに侵攻、樹立した王政と、フランスに反発するスペインとの間で、1808〜14年に展開されたスペイン独立戦争だ。スペイン人とフランス人、あるいは親仏派と反仏派のスペイン人とで繰り広げられた戦いの光景や飢餓、苦しむ民衆の姿、そして政治風刺を描きながらも、フランス対スペインという図式を超え、戦争という非常事態に生み出されるさまざまな暴挙や愚行を暴き出している。 画像提供:国立西洋美術館フランシスコ・デ・ゴヤ〈戦争の惨禍〉より30番《戦争の惨害》1810-14年頃 エッチング、ドライポイント、エングレーヴィング、バーニッシャー/紙 国立西洋美術館 なお、本展示のタイトルは、80番目の作品「彼女はよみがえるだろうか」からとったのであろう。この「彼女」とは、79番目の「真理は死んだ」で描かれる「真理」を指すものだからだ。聴覚を失い、戦争に翻弄(ほんろう)されるゴヤの、失望と期待がない交ぜになった胸中を示唆するとともに、現在の私たちが向き合うロシアのウクライナ侵攻をはじめとした諸問題もほうふつさせる。 さらに、この作品を同館が収蔵する前年の1992年には、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争が勃発している。あるいは購入当時の学芸員も、本展示と同様の同時代の問題をゴヤの作品に重ねて見ていたかもしれない。その意味で、ゴヤの作品に描かれている出来事はアクチュアルな問題であるだけではなく、ずっと繰り返されてきた出来事だということをも思い知らされるのだ。 もちろん、そうした問題を考えずに作品をただ楽しんでみるのもいいだろう。国内で全場面を所蔵する美術館はほとんどないのだから。 関連記事 『国立西洋美術館でパレスチナ人虐殺反対のパフォーマンス、警察による介入も』 『2024年、見逃せない芸術祭8選』 『都内5つの美術館・博物館で入館料が無料になる「Welcome Youth」が今年も実施』 『坂倉建築研究所デザインの新綱島駅直結の商業施設「SHINSUI」が誕生』 『「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」が開幕、5の見どころを紹介』 東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
「カンヌ映画祭」出品の7作品が5月29日まで無料配信中

「カンヌ映画祭」出品の7作品が5月29日まで無料配信中

南フランスのカンヌで毎年開催される「カンヌ映画祭」の名を聞いたことがないシネフィルはいないだろう。古くは衣笠貞之助や今村昌平、最近ではスタジオジブリや是枝裕和、役所広司が受賞しており、毎年日本でもニュースになるほどの知名度を誇る。しかし、この映画祭に出品される作品のうち、実際に鑑賞する機会があるのは、一握りの作品に限られるのではないだろうか。   そんな「カンヌ映画祭」の出品作品の中でも、あまり観る機会がないであろう作品が、オンライン配信サービス「フェスティバルスコープ(Festival Scope)」で、2024年5月29日(水)まで無料配信中だ。観ることができるのは、同映画祭中の「批評家週間」短編部門に出品された以下の7作品。ちなみに、全作品のラインアップは「批評家週間」公式ウェブサイトから確認できる。 ・Valentina Homem「A menina e o pot(The Girl and The Pot)」(ブラジル、2024年、12分)・Daphné Hérétakis「Αυτο που ζηταμε απο ενα αγαλμα ειναι να μην κινειται(What we ask of a statue is that it doesn’t move / Ce qu'on demande à une statue c'est qu'elle ne bouge pas)」(ギリシャ・フランス、2024年、32分)・Guil Sela「Montsouris Park(Montsouris)」(フランス、2024年、14分)・Arvin Belarmino「Radikals」(フィリピン・アメリカ、2024年、21分)・Veronica Martiradonna「Supersilly」(フランス、2024年、10分)・Jan Bujnowski「Taniec w Narożniku(Dancing in the Corner)」(ポーランド、2024年、14分)・Anna Hints & Tushar Prakash「Sannapäiv(Sauna Day)」(エストニア、2024年、13分) 「批評家週間」は、しばしば話題になるパルムドールなどで知られる「オフィシャル」部門や「ある視点」部門と同時期に開催される。運営は独立しているが、「監督週間」などと併せて「カンヌ映画祭」の一部を成す。1962年にフランス映画批評家連盟によって設立されて以来、新進気鋭の才能を発掘することを目的にしており、フランソワ・オゾン(François Ozon)らを輩出してきた。そんな短編映画の将来を担う逸材たちの世界を堪能するのもいいだろう。 なお、視聴するには、同サイトでアカウントを作成する必要があり、無料配信数には上限が設けられている。詳細は公式ウェブサイトを確認してほしい。 関連記事 『前衛陶芸の50年を体感、八木一夫や鈴木治ら走泥社の展覧会』 『有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開』 『津田淳子や大島依提亜らが参加、印刷表現の可能性を探る展覧会』 『ダムタイプ初期作品を伝える貴重なカセットブック2作品がLPレコード化』 『ノスタルジックでカラフルなスイーツビュッフェが新宿で開催」 東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
犬派?猫派?どちらも楽しい日本画の展示が山種美術館で開催中

犬派?猫派?どちらも楽しい日本画の展示が山種美術館で開催中

恵比寿の「山種美術館」で、犬や猫をテーマとした展覧会「犬派?猫派?―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」が2024年7月7日(日)まで開催中だ。 本展覧会は、「第1章 ワンダフルな犬」「第2章 にゃんともかわいい猫」「特集展示 トリは花鳥画」の3章構成で、犬と猫を中心とした作品に焦点を当てている。本記事では、必見の作品をいくつか紹介していきたい。 まず、会場冒頭では江戸時代の俵屋宗達や伊藤若冲、円山応挙、長沢芦雪(ながさわ・ろせつ)などの作品が来場者を出迎える。 Photo: Ryuichiro Sato作者不詳「洋犬・遊女図屛風」(17世紀、紙本・彩色、個人蔵) 中でも「洋犬・遊女図屛風」は、17世紀の風俗画として貴重な作品で、本展覧会が初公開となる。当時の日本では珍しかった長毛の洋犬が描かれている。犬や人物がいる地面は、大ぶりで直線的な幾何学模様。金地に雲霞(うんか)がたなびく背景や遊女の衣装、禿(かむろ)が使うすずり箱の蒔絵(まきえ)などを描く繊細な筆致と好対照をなす。 Photo: Ryuichiro Sato俵屋宗達「犬図」(17世紀、紙本・墨画、個人蔵) 琳派の祖、俵屋宗達「犬図」は、振り返る子犬を琳派特有のたらし込みの技法を使って描く。愛らしい表情にも見えるが、賛によれば、犬にも仏性があるかないかという仏教的なコンテクストの中で描かれているという。 Photo: Ryuichiro Sato竹内栖鳳「班猫」(1924年、絹本・彩色、山種美術館蔵) 山種美術館が誇る名品、竹内栖鳳の「班猫(はんみょう)」も外せない。この作品は、栖鳳が沼津の八百屋の猫を見て、中国の皇帝、徽宗(きそう)作とされる「猫図」の猫になぞらえて、その猫を引き取って制作したという。 前足には白を重ねてふっくらとした前足の手触りを出しており、毛並みの良さが際立つ。近寄って見ると目には金を刷(は)いている。 Photo: Ryuichiro Sato「班猫」のモデルとなった猫(写真は「海の見える杜美術館」所蔵 モデルとされる猫の写真も現存しており、「班猫」そっくりの、きれいな目をして大切にされた猫であったのが伝わってくる。なお、館内は撮影禁止だが、「班猫」と長沢芦雪「菊花子犬図」は撮影が可能だ。 Photo: Ryuichiro Sato長沢芦雪「菊花子犬図」(18世紀、絹本・彩色、個人蔵) 猫でもう一点見ておきたいのは、小林古径「猫」。一見すると毛並みのいい猫だが、よく見ると人間のような目をしている。毛並みをあまり描くことなく、絵の具を塗り重ねて胸毛のふっくらした様子を表現している。 Photo: Ryuichiro Sato歌川国芳「山海愛度図会 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」(1852年、大判錦絵、個人蔵) これまで観てきた作品は、動物を見て愛でる観点から描いているが、歌川国芳「山海愛度図会(めでたいつゑ) 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」は少し見方が違う。猫になめられた時のザラザラした、痛気持ちいい感触を表現している。 Photo: Ryuichiro Sato手前:小針あすか「珊瑚の風」(2023年、紙本・彩色、作家蔵) ほかにも、初公開となる菱田春草「柏ニ小鳥」のほか、山口晃や小針あすかなど現代の作家の作品も展示されている。作家と猫、犬とのエピソードなども紹介されているので、併せて読んでみてほしい。 Photo: Ryuichiro Sato本展覧会オリジナル和菓子(左から「竹林」「菊と子犬」「凛として」「鶴寿」「みどり
前衛陶芸の50年を体感、八木一夫や鈴木治ら走泥社の展覧会

前衛陶芸の50年を体感、八木一夫や鈴木治ら走泥社の展覧会

前衛陶芸家集団として戦後に結成された走泥社(そうでいしゃ)の活動を検証する展覧会「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」が、虎ノ門の「菊池寛実記念 智美術館」で2024年9月1日(日)まで開催されている。展示は3章構成で、6月23日(日)までの前期に1章と2章を、7月5日(金)からの後期を3章として、前期と後期の各期にも展示替えを行う。 Photo: Ryuichiro Sato展示風景 走泥社は1948年に京都の陶芸家、八木一夫、叶哲夫、山田光(やまだ・ひかる)、松井美介(まつい・よしすけ)、鈴木治の5人で結成された集団。結成後、メンバーが入れ替わりながら、使うことを前提とした器ではなく、立体造形として芸術性を追求した「オブジェ焼き」と呼ばれる陶芸作品を制作した。本展が紹介するのは、50年にわたる活動期間のうち、前衛性が顕著な1973年までの時期、32人の作品だ。 なお、「走泥社」の名は、中国の鈞窯(きんよう)の釉に見られる「蚯蚓走泥文(きゅういんそうでいもん)」に由来する。線状の模様をミミズ(蚯蚓)が泥を這(は)った跡にたとえたものだ。「大阪市立東洋陶磁美術館」に収蔵されている「紫紅釉 盆」などに見ることができる。   Photo: Ryuichiro Sato八木一夫 《ザムザ氏の散歩》 1954年 京都国立近代美術館   第1章では、走泥社の活動最初期の作例を紹介する。走泥社のメンバーのうち、多くの人が知る作家は八木一夫だろう。そして、本章のメインの一つが、八木による有名な「ザムザ氏の散歩」だ。 フランツ・カフカ(Franz Kafka)の小説の登場人物から名付けられたこの作品だけを見ていると、あたかもイモムシのような虫に変身したグレゴール・ザムザが無数の脚で歩く光景を想像させられる。それほどにこの作品の造形は、生き物であるかのようなイメージを喚起しやすい。 しかし、会場には展示されていないが、「《ザムザ氏の散歩》を肩にのせる八木一夫」なる写真も現存している。「森美術館」での「MAMリサーチ007:走泥社―現代陶芸のはじまりに」でも紹介されたこの写真を見た上で、作品を観ると、この作品が結局は「粘土」という物質であり、「オブジェ」であること、そしてタイトルの「散歩」という言葉に込められた皮肉を感じさせられる。 Photo: Ryuichiro Sato八木一夫 《二口壺》 1950年 京都国立近代美術館 本章では、こうした著名な作品のほかにも、走泥社発足初期の作品を紹介している。初期には中国や朝鮮半島の陶磁器を基盤にしながらも、パブロ・ピカソやイサム・ノグチなど同時代の美術表現からの影響が見受けられるという。 例えば、八木の作品は造形や抽象的な文様に後年の「前衛的な」形態の萌芽(ほうが)を感じさせるものの、白磁を彷彿(ほうふつ)させる清冽(せいれつ)な白と鮮烈な色彩が印象的だ。 「オブジェ焼き」のように実用性から距離をとると聞くと、ついつい作品が何を表現しているのか、その「意味」ばかりを考えがちになる。だが、会場ではケースも極力使われておらず、個々の作品は前後左右から近づいて眺められるように展示されている。純粋に多様な形を見て遊ぶのも楽しみ方の一つだ。 Photo: Ryuichiro Sato鈴木治 《ロンド》 1950年 華道家元池坊総務所 研究者の金子賢治は、この時期のメンバーが手探りの状態で制作をしていたとし、鈴木治による「形を模索する過程で器の機能がだんだん邪魔になってくる」という証言を紹介している。1章の「ロンド」
バーレスクやポールのトップパフォーマーが参加、「SAKURA」が毎週水曜日に開催

バーレスクやポールのトップパフォーマーが参加、「SAKURA」が毎週水曜日に開催

「和」をテーマに、バーレスクダンスやポールダンスなど多様なジャンルが融合したダンスイベント「SAKURA」のオープニングイベントが、六本木の「ジェイル トーキョー 六本木(JAIL TOKYO ROPPONGI)」で2024年4月24日に開催された。 Photo: @zoigraph このイベントをプロデュースするのは、「ageHa」での活動で知られるポールダンサーのmomoMc。今後も毎週水曜日に同会場で開催される(21時〜27時)。 オープニングに参加したのは、momoMcのほか、リタ・ゴールディー(Rita Goldie)、Jacky、zaqi、KOTONE、YOU、BiBi、ASAHI。いずれもポールダンスやバーレスクなど各ジャンルのトップパフォーマーであり、SAKURAは彼女たちのパフォーマンスを通して各ジャンルの融合を目指している。 Photo: @zoigraph Photo: @zoigraph オープニングではジェイル トーキョー 六本木ならではの吊(つ)り舞台も活用しながら、花魁(おいらん)をイメージしたバーレスクダンスのほか、ポールダンス、VIPルームでの「花魁バスタブショー」などが開催された。 Photo: @zoigraph この種のイベントに初めて訪れる人にも楽しんでもらえるように、花火やエアリアルロープなども利用した演出がなされており、和物をテーマにしたほかのショーとは一線を画しているのも魅力だ。ダンスだけでなく、意匠にも工夫が凝らされた着物などの衣装も見どころの一つだろう。 プロデュースをしたmomoMcは、「コロナ禍はエンターテインメント業界の縮小や多くの廃業をもたらしましたが、今やアフターコロナを迎えました。空前の円安の中でインバウンドが盛り上がりを見せる現在、このイベントを通して業界を盛り上げたいです。今後は国内の旅行者だけではなく、国内外を問わず外国人にもこうしたイベントを認知してもらいたいです」と語る。 パフォーマーが舞台に立つまでには想像できないような研さんを積んでいることを思えば、そのパフォーマンスは「楽しい」だけではなく、「美しい」とさえ思えるはず。イベントの最後にはチップタイムもあるので、目いっぱいチップをはずむのもいいだろう。 Photo: @zoigraph 次回は5月8日(水)21時から。いつもと少し趣の違う六本木の夜を過ごしたい人は、ぜひ訪れてほしい。なお、ジェイル トーキョー 六本木は会員制。事前に公式ウェブサイトで料金や入場方法などをチェックしておこう。 関連記事 『「富江」「うずまき」人気作品に迫る、伊藤潤二初の大規模個展が開催』 『全国18カ所の祭りを巡る大石始の新著「異界にふれる ニッポンの祭り紀行」発売』 『約60点が初公開、奇想のガラス作家エミール・ガレの回顧展』 『五反田の新名所になるか、フードホール「五反田食堂」が誕生』 『ノスタルジックでカラフルなスイーツビュッフェが新宿で開催」 東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
琳派の代表作「燕子花図屏風」は右から観る、根津美術館で毎年恒例の展示

琳派の代表作「燕子花図屏風」は右から観る、根津美術館で毎年恒例の展示

江戸時代の琳派を中心とした展覧会「国宝・燕子花図屏風―デザインの日本美術―」が、「根津美術館」で2024年5月12日(日)まで開催されている。この展示のメインは、琳派の巨匠、尾形光琳(1658~1716年)の「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」。同館では、庭園にカキツバタが咲く時期に合わせて、この作品を中心とした展示を毎年違う切り口から行っている。 今年は「デザイン」をテーマに、琳派などの日本美術を概観。本記事では、その中からいくつかの見どころを紹介する。 なお、この展示では「デザイン」という言葉を、いわゆる「産業デザイン」だけではなく、装飾性など「日本美術の特質」ともいうべき古くて新しい意味で使っているという点に注意が必要だ。これは、もちろん光琳が京都の呉服商「雁金屋(かりがねや)」に生まれ、服飾のデザインなどの造形感覚を磨いていたことが背景にある。 Photo: Ryuichiro Sato尾形光琳「燕子花図屏風」(6曲1双、紙本金地着色、18世紀、根津美術館蔵) 最初に観ておきたいのは、何と言っても「燕子花図屏風」だ。画題であるカキツバタは、「伊勢物語」第9段「東下り」に着想を得ていることが指摘されている。この段には、カキツバタの名所である八橋(愛知県)で和歌が詠まれているからだ。光琳が制作した「八橋図屏風」(「メトロポリタン美術館」蔵)と比較するとよく分かるだろう。 Photo: Ryuichiro Sato尾形光琳「燕子花図屏風」(6曲1双、紙本金地着色、18世紀、根津美術館蔵) 造形上の特徴としては、絵とデザイン、両方の性質を強く印象付ける点が挙げられる。近づいて観ると、群青を分厚く塗り、花弁のふっくらとした様子を描き出した花や、緑青を刷(は)いた葉はいずれも絵画的な造形感覚を生かしている。一方で離れて観ると、リズミカルに配置されたカキツバタの一部には、型紙が反復して利用されたり、左隻と右隻で視点の高さやカキツバタの配置を非対称にしたり、意匠性を強調してもいる。 Photo: Ryuichiro Sato尾形光琳「燕子花図屏風」(6曲1双、紙本金地着色、18世紀、根津美術館蔵) さらに、デザインを考えるなら、屏風(びょうぶ)という立体的な形式にも着目してほしい。画面右側の特定の角度から観ると、リズミカルに配置されたカキツバタは一続きになって見え、正面からよりも視点が上になったかのように錯覚する。あたかも観ている私たちが、描かれていない八橋の上に立っているかのように。一方、左から観てもこのようには見えず、正面から観た際の左隻と右隻の非対称性がより際立ってくるのだ。 Photo: Ryuichiro Sato「扇面歌意画巻」(1巻、紙本着色、17世紀、根津美術館蔵) この「燕子花図屏風」のように、日本美術においては、和歌や物語と美術は切り離せない関係にあった。本展では、こうしたテキストを画面にいかに取り込むか、という面から発展を遂げた絵画のデザイン性にも着目している。和歌とその歌の内容を描いた扇型の絵による絵巻物「扇面歌意画巻」や、「尾形切(業平集断簡)」など和歌を書いた美麗な色紙など、さまざまな表現手法の違いを楽しんでほしい。 Photo: Ryuichiro Sato「誰が袖図屏風」(6曲1双、紙本金地着色、17世紀、根津美術館蔵) Photo: Ryuichiro Sato柴田是真「雛図」(19世紀、根津美術館蔵)/木屋製「菊紋唐草蒔絵雛道具」(20世紀) 漆芸や陶芸、染織など工芸との比較も楽しい。漆芸家
アンゼルム・キーファーの個展が25年ぶりに開催、6月29日まで北青山で

アンゼルム・キーファーの個展が25年ぶりに開催、6月29日まで北青山で

ドイツのアーティスト、アンゼルム・キーファー(Anselm Kiefer)の個展「Opus Magnum」が、北青山のギャラリー「ファーガス マカフリー 東京」で2024年6月29日(土)まで開催されている。日本での個展は1998年以来で、ガラスケースを使用した立体作品と水彩画の計20点が展示される。 キーファーは、「新表現主義」に位置づけられる1945年生まれのアーティスト。ゲオルク・バゼリッツ(Georg Baselitz)やヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)らに影響を受け、ナチスドイツなどの歴史的な出来事を扱う作品で知られている。日本では、「国立国際美術館」が所蔵する「星空」などが有名だ。 Photo: Ryuichiro Sato「Mohn und Gedächtnis」、2014 キーファーは作品の「主題」や「意味」を強く意識しており、作品内にキャプションのごとくタイトルやテクストを用いている。中には、神話や聖書からの引用も含まれる。素材へのこだわりも強く、ドローイングと鉛や植物、砂といった異なる素材を組み合わせる手法も特徴の一つだ。 Photo: Ryuichiro Sato「Danaë」、2014 例えば、今回の作品で分かりやすいのは、「ダナエ」だろう。ギリシャ神話で語られる王女ダナエは、神託を理由に塔に閉じ込められるが、最高神ゼウスが金の雨となって降り注ぐことでゼウスの子を懐妊、やがて英雄ペルセウスを産む。この作品では、縦長のガラスケースが垂直に展示空間を切り取る。そのため、ヤン・ホッサールト(Jan Gossaert)の「ダナエ」のように塔を彷彿(ほうふつ)とさせる上下を強調した空間構成となっている。 しかし、ホッサールトの作品とは異なり、水彩画のダナエはより性的な身ぶりをとる姿態で描かれる。ゼウスの金の雨はヒマワリの種に金彩を施して、ケースの下にまかれている。完全な雨として表現せず、「種」の形を残すことで、生殖とより直接的に結び付く。こうした主題の翻案には、キーファー独特の意味深さや遊び心を見て取れよう。 Photo: Ryuichiro Sato「Bermuda – Dreieck」、2017 ほかにもバミューダトライアングルや「ヨハネ福音書」、画家のパレットなどさまざまな主題の作品が並ぶので、一点一点じっくり素材や表現手法などに着目しながら観てほしい。 また、今回の展示に合わせて、椹木野衣など12人の著名な著者によるエッセーや各作品についてのテキストを収めた160ページの展覧会カタログ(1万円、税込み)も出版される。会場のみでの販売だが、読んでから鑑賞すると、作品をより深く理解できることだろう。 ギャラリーは展示スペースの都合で、一度の入場者数を最大5人に制限している。入場待ちが生じる可能性があるので注意してほしい。 なお、2024年から2025年にかけては、キーファーに関連するイベントが重なる。2024年6月21日(金)以降、順次全国公開される映画「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」は、キーファーの人生を作品とともに捉えたドキュメンタリーで、監督はキーファーと同じくドイツ生まれのヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)。その多彩な作品を3D&6Kで撮影し、眼前に作品が迫り来るかのような圧倒的没入感を実現している。 2025年3月下旬からは京都府の「二条城」でも新作による展示も予定されている。京都市とファーガス マカフリーが主催し、二の丸御殿台所や城内の庭園を舞台にしたアジアにおける過去最大
「テルマエ・ロマエ」の実像を知る展示、パナソニック汐留美術館で開催中

「テルマエ・ロマエ」の実像を知る展示、パナソニック汐留美術館で開催中

古代ローマや日本の入浴文化を紹介する展覧会「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」が、「パナソニック汐留美術館」で2024年6月9日(日)まで開催中だ。 展示は「序章:テルマエ/古代都市ローマと公共浴場」「第2章:古代ローマの浴場」や「第4章:日本の入浴文化」など5章から構成される。監修には、日本における古代ローマ研究の第一人者である青柳正規と芳賀京子、さらに漫画「テルマエ・ロマエ」で知られるヤマザキマリが協力する。青柳が長年調査に関わってきたイタリア・ナポリにある「ナポリ国立考古学博物館」所蔵の作品が30点以上来日するのが特徴だ。 Photo: Ryuichiro Sato「カラカラ帝胸像」(ナポリ国立考古学博物館、212~217年) そもそも「テルマエ(thermae)」とは、カラカラ帝ことルキウス・セプティミウス・バッシアヌス(Lucius Septimius Bassianus)が建設した「カラカラ浴場」(216年)など、狭義には古代ローマの浴場施設を指す。古代ローマの帝政初期には、皇帝は食糧や見せ物などを提供して大衆の人気獲得を図ることが多く、テルマエもその一環であったという。 Photo: Ryuichiro Sato「炭化したパン(レプリカ)」(ナポリ国立考古学博物館、79年) 「第1章:古代ローマ都市のくらし」では、テルマエを取り巻く古代ローマの住環境にまつわる作品や遺物を展示。意外とふっくらとして食べやすそうな「炭化したパン(レプリカ)」や、日本ではほとんど見る機会がない古代ローマのフレスコ画は必見だ。 Photo: Ryuichiro Sato「ヘタイラ(遊女)のいる饗宴」(ナポリ国立考古学博物館、1世紀 ) 「ヘタイラ(遊女)のいる饗宴」には当時の宴席の様子が描かれ、リュトン(角の形をした容器)や饗宴(きょうえん)用の食器なども描き込まれている。リュトンも宴席用のモザイクガラスの皿も実際に展示されているので、併せて観ておきたい。 Photo: Ryuichiro Sato「千華文の皿」(平山郁夫シルクロード美術館、前1~後1世紀) 続く2つの章では、テルマエの実情が細部にわたって解き明かされる。 Photo: Ryuichiro Sato Photo: Ryuichiro Sato 第2章では、入浴時に肌をかいたりマッサージに使用したりしたストリギリスや、体に湯をかけるパテラ(小皿)、オイルを塗布する香油つぼなどが並び、行き届いた入浴事情を垣間見ることができる。 Photo: Ryuichiro Sato テルマエのルーツの一つは、神域に設けられた医療用の入浴施設。そうしたルーツを反映するように、当時の人々が奉納した手足の模型や浮き彫り彫刻が並ぶ。現代の私たちが神社に奉納している、治したい部位をかたどった模型と思わず重ねてしまう。 Photo: Ryuichiro Sato 「2-3 女性たちの装い」では、「化粧用スパチュラ(ヘラ)」や鏡などのほか、「国立西洋美術館」所蔵の「橋本コレクション」から古代ローマの指輪を大量に展示。アスリートの肖像など、テルマエにまつわる指輪もある。それぞれがとても小さく繊細なので、じっくりと時間をかけて眺めてほしい。 Photo: Ryuichiro Sato「恥じらいのヴィーナス」(ナポリ国立考古学博物館、1世紀) テルマエの装飾には、水に強いモザイクが好んで使われた。「第3章:テルマエと美術」の会場では、こうしたモザイクの床などを再現。当時のテルマ
「記憶」を探る展覧会「記憶:リメンブランス」が開催中

「記憶」を探る展覧会「記憶:リメンブランス」が開催中

「記憶」をテーマにした展覧会「記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から」が、「東京都写真美術館」で2024年6月9日(日)まで開催されている。篠山紀信(しのやま・きしん)と中平卓馬(なかひら・たくま)による「決闘写真論」(1976年)における篠山の示唆を起点としながら、高齢化社会や人工知能(AI)など、「記憶」に対して多彩なアプローチが試みられている。 参加するのは篠山のほかに、米田知子、グエン・チン・ティ(NGUYỄN Trinh Thi)、小田原のどか、村山悟郎、マルヤ・ピリラ(Marja PIRILÄ)、 Satoko Sai + Tomoko Kuraharaだ。 最初に展示されているのは、「決闘写真論」でも扱われている「誕生日」。篠山の母が、彼の誕生日に写真館に連れていって撮影させた写真が並ぶ。当学芸員の関昭郎が指摘するように、「プライベートなものが作品化すると、集団的な母と子の関係に変わる」点が印象的だ。写真家自らによる写真ではなく、自らの記憶(記録)を差し出す始まり方は、ほかではなかなか見られない。 Photo: Keisuke Tanigawa篠山紀信「家」(鹿児島県川辺郡、1975年、銀色素漂白方式印画、東京都写真美術館蔵) Photo: Keisuke Tanigawa篠山紀信「家」(鹿児島県川辺郡、1975年、銀色素漂白方式印画、東京都写真美術館蔵) 続いて展示される篠山の「家」は、1976年の「ヴェネツィア・ビエンナーレ」出品作で、中平を「こういう写真の在り方もあるのか」と感心させた作品だ。篠山が「人間の生活のにおいや手あか」を捉えようとしたこのシリーズは、一見して忘れ難いすごみがある。 Photo: Keisuke Tanigawa Photo: Keisuke Tanigawa米田知子 《アイスリンク-日本占領時代、南満州鉄道の付属地だった炭坑のまち、撫順》〈Scene〉より(2007年、発色現像方式印画、東京都写真美術館蔵) 篠山に続く部屋に広がる米田知子の作品は、今回初公開の篠山と比べるとより集合的な記憶を扱う印象がある。 作品に付けられたタイトルの端々から、伊藤博文が暗殺されたハルピンや韓国と北朝鮮の境界である北緯38度線、日露戦争のサハリンなど、かなりの年月を経た歴史上の出来事が示唆される。しかし、作品の多くはとても静かな光に満ちていて、そうした出来事を容易には喚起してこない。俯瞰(ふかん)的な景色は、過去と現在の間に過ぎ去った長い時間をほのめかすようだ。 Photo: Keisuke Tanigawa米田知子「DMZ」(未)完成の風景 I、(未)完成の風景( 2015/2023年、発色現像方式印画、東京都写真美術館蔵) 今回初公開となる「DMZ」シリーズの「(未)完成の風景」も、構図の上では同館所蔵の米田を代表するシリーズ「Between Visible and Invisible」を思い起こさせる。 Photo: Keisuke Tanigawa作者不詳《(上野彦馬翁胸像)》《(上野彦馬像(老年))》《(晩年の上野彦馬胸像)(制作年不詳、全てゼラチン・シルバー・プリント、東京都写真美術館蔵) 彫刻や研究など多彩な活動を展開する小田原のどかは、当初は展覧会図録のテキストのみで参加予定であったが、その後、作品の展示もすることになったという。展示は、同館所蔵の作品から小田原が選んだ、作者不詳の写真から構成されている。日本写真黎明(れいめい)期の写真家である上野彦馬の胸像が、第二次世界