Kosuke Shimizu

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時代の言葉を書き続ける書家、インタビュー:石川九楊

時代の言葉を書き続ける書家、インタビュー:石川九楊

タイムアウト東京> カルチャー >時代の言葉を書き続けて、インタビュー:石川九楊 「お願いだから、『書』というと、子どものお習字や書道展の作品を思い浮かべるのではなく、東アジアの文化文明の根底にあるものだというように考えてほしい」。そう話すのは、現代日本が誇る書家の石川九楊だ。2024年6月8日(土)から7月28日(日)まで「上野の森美術館」で開催される展覧会「石川九楊大全」の開幕を目前に、石川に話を聞いた。 関連記事『東京、5月から6月に行くべきアート展』
「第8回横浜トリエンナーレ」でしかできない5のこと

「第8回横浜トリエンナーレ」でしかできない5のこと

タイムアウト東京 > アート&カルチャー > 「第8回横浜トリエンナーレ」でしかできない5のこと 2024年3月15日、「第8回横浜トリエンナーレ」が開幕した。2001年に始まり、日本の数ある芸術祭の中でも比較的長い歴史を持つ同イベント。これまでも横浜の街らしい「国際性」を一つの特徴としてきたが、今回は北京を拠点に国際的に活動するアーティストでキュレーターのリウ・ディン(劉鼎)とキャロル・インホワ・ルー(盧迎華)の2人をアーティスティックディレクターとして迎え、その強みを存分に打ち出してきた形だ。 中国近代文学の祖、魯迅(ろじん)の著作に着想を得た「野草:いま、ここで生きてる」という一見不思議なテーマを掲げた今回の展示は、グローバリゼーションの暴力性やナショナリズムの台頭など、さまざまな問題に直面する現代社会に丁寧に向き合った、非常に見ごたえのある内容となっている。 政治と芸術について極端な言説ばかりが飛び交う昨今にあって、アートが持つアクチュアリティをもう一度信じることができるような、勇気を与えてくれるものに仕上がっていると言えよう。 Photo: Keisuke Tanigawa(横浜美術館の側壁にもSIDE COREの作品が) メインとなる国際展「野草:いま、ここで生きてる」が、リニューアルを経た「横浜美術館」や、2020年まで「YCC ヨコハマ創造都市センター」が入居していた「旧第一銀行横浜支店」、「BankART KAIKO」などで開催されるほか、地域連携のプログラム群「アートもりもり!」も、横浜駅から山手地区におよぶ広いエリアで展開される。本記事では、充実の芸術祭に対して、ほんの一握りしか触れることが叶わないが、5つの観点で見所を紹介する。 関連記事『「横浜美術館」がついにオープン、リニューアル後の新たな姿をレポート』『2024年、見逃せない芸術祭8選』
生きた本棚が作るゲイコミュニティー

生きた本棚が作るゲイコミュニティー

言わずと知れたゲイタウン新宿二丁目。その深奥にある、とりわけディープな一角「新千鳥街」の中でブックカフェ「オカマルト」は営業している。店主の小倉東(おぐら・とう)は、ドラァグクイーン「マーガレット」の名でも知られる、日本のアンダーグラウンドなゲイシーンにおける最重要人物の一人だ。かねてより雑誌編集や文筆業でも豊富な知識と鋭い洞察力を披露してきた彼が、2016年末にオープンさせた店とあって注目が集まっている。同店の本棚に並ぶのは、通常のブックカフェとは異なり、ポルノ雑誌からアカデミックな研究書まで、ゲイやクィアカルチャー、同性愛などにまつわるものばかり。二丁目というコミュニティー内でゲイ資料をアーカイブしていく意義とは何なのか。平日昼間のオカマルトで話を聞いた。
権力に負けず表現を続けるロウ・イエに聞く、映画「シャドウプレイ」の制作秘話

権力に負けず表現を続けるロウ・イエに聞く、映画「シャドウプレイ」の制作秘話

タイムアウト東京 > 映画 > インタビュー:ロウ・イエ テキスト:伊藤志穂 検閲と闘いながら、変わりゆく中国の現代を描き続けてきた映画監督、ロウ・イエ。権力に負けず表現を続ける姿勢は、彼のこれまでの作品から見ても明らかだ。 2000年、「ふたりの人魚」は当局の許可なしに「ロッテルダム国際映画祭」に出品したという理由で、中国国内では上映禁止になる。中国では公に話題を取り上げることのできない天安門事件にまつわる出来事を扱った「天安門、恋人たち」(2006年)は、「カンヌ国際映画祭」で上映された後に上映禁止となり、ロウ自身も5年間の映画制作禁止の処分を受ける。それでも自身の描きたいものを貫いてきた彼は、数多くの国際映画祭で高い評価を受けている。 2013年の広州市で起きた汚職事件を巡る騒乱をベースとした映画「シャドウプレイ」では、時代に翻弄される人々の欲望や感情を描き、検閲の難しさと闘いながらも、公開を実現。広州市は、鄧小平(とう・しょうへい)が開始した改革開放(中国国内体制の改革および対外開放政策)で一番の変化をみせた地域であり、本作に登場するシエン村はその変化を象徴する特別な場所だといえる。 本インタビューは2019年の監督来日時に実施、経緯や映画の撮り方について話を聞いた。
ステイホームできない街、文化支援の現場から

ステイホームできない街、文化支援の現場から

タイムアウト東京 > カルチャー > ニューノーマル、新しい文化政策 第3回 上田假奈代 社会の在り方を大きく変容させた新型コロナウイルス感染症。連載シリーズ『ニューノーマル、新しい文化政策』では、アートプロデューサー、森隆一郎(合同会社渚と代表)のディレクションのもと、コロナ禍が文化政策に及ぼす影響やパンデミック後の在り方を探っている。 第3回は、大阪のNPO法人、こえとことばとこころの部屋ココルーム代表の上田假奈代(うえだ・かなよ)。日雇い労働者の街、釜ヶ崎で「表現」を軸にカフェやゲストハウスなどを営むココルームの経験をもとに、理想的な文化支援について聞く。 関連記事 『ニューノーマル、新しい文化政策 第1回 吉本光宏』 『ニューノーマル、新しい文化政策 第2回 若林朋子』 『ニューノーマル、新しい文化政策 第4回 平田オリザ』
クィアフェスティバル「Q(WE)R」が東京で初開催

クィアフェスティバル「Q(WE)R」が東京で初開催

タイムアウト東京 > LGBTQ+ > クィアフェスティバル「Q(WE)R」が東京で初開催 インタビュー、テキスト:油谷佳歩、岸茉利(大工時間) 2022年4月18日から5月6日(金)まで、在日フランス大使館とアンスティチュ・フランセ日本の支援のもと、東京各所で開催される『Q(WE)R-インターナショナル・クィア・カルチャー・フェスティバル』。 東京プライドウィークと並行して、パフォーマンスや映画上映、パーティーなど、クィアカルチャーを語る上で欠かせない数々の企画が準備されている。 クィアカルチャーとは何か? どのような目的で今回のイベントを開くのか? 東京の中心地でクラブイベントを含むインターセクショナルなフェスティバルの開催について、共同キュレーターを務めるイザベル・オリヴィエとシャイ・オハヨンに話を聞いた。 インタビュアーは、フェミニストでクィアなマインドを持ったコレクティブとして『大工時間』というパーティーを大阪で主催する、油谷佳歩、岸茉利が務めた。 関連記事『LGBTQ+フェスティバル「Q(WE)R」のベストイベント』『自分たちの居場所を作ること』『ドラァグクイーンとして体毛を生やす理由「男・女」らしさで遊んで』
墨田区はモデルケースになれるか、アートプロジェクトを開催する本当の意義

墨田区はモデルケースになれるか、アートプロジェクトを開催する本当の意義

すみだ北斎美術館の開館をきっかけに、2016年から墨田区で開催されているアートプロジェクト『隅田川 森羅万象 墨に夢』(通称『すみゆめ』)。2021年9月1日から12月26日にかけて開催されている『すみゆめ2021』の注目イベントの一つが、地域の子どもたちが制作した巨大な段ボール力士が土俵を沸かす『どんどこ!巨大紙相撲~北斎すみゆめ場所~』だ。 『どんどこ!巨大紙相撲』は、美術家ユニットのKOSUGE1-16が全国各地で展開してきたプロジェクトだが、両国国技館を擁する墨田区では、本格的な実況解説や相撲甚句なども加わり『すみゆめ』毎年恒例の人気イベントになっている。 タイムアウト東京では、『すみゆめ』の魅力を掘り下げるべく、KOSUGE1-16のアーティスト土谷享とともに、多方面で縦横無尽な活躍を見せる「スタディスト」の岸野雄一を招いて、対談を行った。コンビニエンスストアでのDJイベント開催や、盆踊りの現代風アップデート、最近では公園でレコードを鑑賞する『アナログ庁』の開設など、東京のアンダーグラウンドシーンで常に話題を呼んでいる岸野だが、『すみゆめ』でも音楽監修を務める『屋台キャラバン』(主催sheepstudio)をはじめ、さまざまなイベントに関わっている。 今回2人には、開催を間近に控えた『どんどこ!巨大紙相撲』のことや、地域でアートプロジェクトを開催する意義、墨田区ひいては東京のカルチャーの潮流などについて、リモートではあるもののリラックスした雰囲気で自由に語り合ってもらった。
SDGsとアートの未来とは、南條史生が語る

SDGsとアートの未来とは、南條史生が語る

タイムアウト東京 > カルチャー > SDGsとアートの未来とは、南條史生が語る 2021年4月29日(木・祝)〜5月9日(日)、「SDGs」をテーマにした芸術祭『ART for SDGs』が福岡県北九州市で開催。SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年9月に国連で採択された文書『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(以下2030アジェンダ)』の中心を成す行動指針だ。貧困や環境問題、ジェンダー平等など、2030年までに達成すべき17のゴール(目標)を掲げている。一見すると、「芸術」とは直接的な関係がなさそうだが、日本の地方都市があえてSDGsを名前に冠する芸術祭を開催する意義とは何なのか。ディレクターを務める南條史生に話を聞いた。  関連記事『インタビュー:南條史生』
インタビュー:佐東利穂子

インタビュー:佐東利穂子

タイムアウト東京 > カルチャー > インタビュー:佐東利穂子 世界中が称賛するアーティスト、勅使川原三郎が率いるダンスカンパニー「KARAS」。パリ オペラ座バレエ団をはじめ、フランクフルト バレエ団、ネザーランドダンスシアター(NDT)など世界の名だたるカンパニーに振付作品を提供してきた勅使川原だが、驚くべきことに、その活動拠点が荻窪にあることは意外と知られていない。たとえば仕事帰りに、ディナー程度の価格で世界最先端の表現に触れられるKARAS APPARATUSがいかに貴重かということについては、2016年の記事『アーティストが場を持つということ』を参照してほしい(同記事で取り上げられている十色庵は2020年4月に閉館)。 そのKARASにあって、ここ何年ものあいだ舞台芸術ファンの注目を一身に浴びているのが、ダンサーの佐東利穂子だ。唯一無二の存在感が輝く舞台上だけではなく、昨今ではアーティスティックコラボレーターとして、勅使川原作品のクリエイション全般への貢献が大きく期待されている彼女。KARASが長らく精力的に取り組んできた「文学作品を踊る」ということを中心に、2021年8月に上演される勅使川原三郎版『羅生門』の魅力についても聞いた。 関連記事 『アーティストが場を持つということ』 『インタビュー:石井則仁(山海塾)』
アートの専門家が文化政策に必要な理由

アートの専門家が文化政策に必要な理由

タイムアウト東京 > カルチャー > ニューノーマル、新しい文化政策 第4回 平田オリザ 社会の在り方を大きく変容させた新型コロナウイルス感染症。連載シリーズ『ニューノーマル、新しい文化政策』では、アートプロデューサー、森隆一郎(合同会社渚と代表)のディレクションのもと、コロナ禍が文化政策に及ぼす影響やパンデミック後の在り方を探っている。第4回に話を聞くのは、劇団「青年団」主宰で、さまざまな自治体の文化政策に関わってきた劇作家の平田オリザ。アーツカウンシルの意義や芸術監督制度の是非、コロナ禍で大打撃を受けた舞台芸術と観光業を専門とする大学、『芸術文化観光専門職大学』などについて聞いた。 関連記事 『ニューノーマル、新しい文化政策 第1回 吉本光宏』 『ニューノーマル、新しい文化政策 第2回 若林朋子』 『ニューノーマル、新しい文化政策 第3回 上田假奈代』
「メセナ大国」日本のコロナ以降

「メセナ大国」日本のコロナ以降

タイムアウト東京 > カルチャー > ニューノーマル、新しい文化政策 第2回 若林朋子 社会の在り方を大きく変容させた新型コロナウイルス感染症。連載シリーズ『ニューノーマル、新しい文化政策』では、アートプロデューサー、森隆一郎(合同会社渚と代表)のディレクションのもと、コロナ禍が文化政策に及ぼす影響を探っている。第2回は、企業が行う文化活動に長年携わってきた若林朋子に、企業メセナを中心とした民間による文化支援について聞いた。 関連記事 『ニューノーマル、新しい文化政策 第1回 吉本光宏』 『ニューノーマル、新しい文化政策 第3回 上田假奈代』 『ニューノーマル、新しい文化政策 第4回 平田オリザ』
インタビュー:九世野村万蔵

インタビュー:九世野村万蔵

タイムアウト東京 > アート&カルチャー > インタビュー:九世野村万蔵 伝統芸能、それも江戸の町衆に支持された歌舞伎ではなく、貴族や武家の寵愛を受けた能楽と聞くと、堅苦しく近寄りがたい印象を受ける向きも多いかもしれない。しかし、九世野村万蔵のおおらかな人柄に触れれば、能楽に対するそのような感想が当たらないものであるということに同意してもらえることだろう。 「狂言には『人間を愛したり、許したりしないといけませんよ』というメッセージが込められているんですよね」と話してくれたのが九世野村万蔵、狂言の二大流派の一つ、和泉流の野村万蔵家9代目当主だ。実父に公益社団法人日本芸能実演家団体協議会会長でもある人間国宝の野村萬を持ち、自身も万蔵家の組織「萬狂言」を率いて国内外で活動を行う、当代きっての狂言師だ。 時に「双子」とともたとえられる「能」と「狂言」の、二つを合わせた呼び名が「能楽」、古くは「猿楽」とも呼ばれていた。能に、神や仏、鬼といったこの世ならざるものを扱う悲劇性の強く深刻なものが多いのに対して、狂言は人間の滑稽さをユーモラスに表した喜劇と、おおまかには言える。 「能と狂言は表裏一体。どちらが表でもいいんですけれども、その両輪があるから今の時代まで生き残ってきた」と万蔵が言うように、悲劇だけでなく喜劇もあればこそ、多面的な人間の深みを表現することに能楽は成功してきたのだろう。万蔵の親しみやすい例にならうなら、「今で言えばNHK的な頭になって政治などについて真面目に考える」ことも、「バラエティ番組みたいにちょっとふざける」ことも人間の重要な生活の一部だ。「武家社会や貴族社会では能が好まれたとされますが、みんな頭がいいと思われたいから真面目な方の能を愛好していると言う。でも本心では狂言が好きという人もいっぱいいたんですよ」と茶目っ気を見せて笑わせてくれたのも狂言師ならではか。 『東京芸術祭2016』オープニングセレモニーにて 「ピエロ」への影響などで有名なイタリアのコメディアデラルテと同様に、狂言にもパターン化されたキャラクターが多く登場する。好きな役柄を尋ねると、「気持ちいいのはやっぱりちょっと威張ってる大名とかね。だけど本当は愛嬌がある、というような役柄が好きですね。狂言には、ほぼ悪人は出てこないと僕は考えています」。盗みを働く者や、賄賂を受け取る役人など、罪を犯す人物は数多く出てくる狂言だが、それは「悪人とは違う」と万蔵は語る。狂言では「人間誰しも持っている部分」がつい出てしまったり、それで後でしっぺ返しを受けたり、ということが描かれているからこそ許してしまう。そのような人間性が、「デラルテもそうだけれども、狂言にも多く描かれている」。これが万蔵の言う「『人間を愛したり、許したりしないといけませんよ』というメッセージ」だ。ゆえに、武家や貴族のみならず、庶民からも愛されてきた。 もちろん神事としての能楽という側面も忘れてはいけない。儀式的な面影を強く残す狂言『三番叟(さんばそう)』は、五穀豊穣を祈願し、また感謝を捧げるものであって喜劇としての要素は一切ない。「今でも『三番叟』を舞う際は身を清め精神を清め、神に憑依してもらいたい」という態度で臨むという。また、能を専門にする役者が狂言の舞台に立つことはない反面、狂言師は能においてもストーリーテラー的な重大な役割を担う。「狂言は簡単に言えばコウモリだと思います。何でもござれというのは大げさでも、とても幅広く」対応できる技量を狂言は必要とする。「悪く言えば器用」とおどけるが、確かに一つの道を極めることが

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荏開津広が語るSIDE CORE「CONCRETE PLANET」に見るストリートとは

荏開津広が語るSIDE CORE「CONCRETE PLANET」に見るストリートとは

アートチーム「SIDE CORE」による彼ら自身の名義では初となる東京での個展「CONCRETE PLANET」は、これまでの決して短くない彼らの活動を振り返る集大成であると同時に、日本の現代美術シーンにおいて現在進行中の注目すべき動きについての展示である。 高須咲恵、松下徹、西広太志からなるSIDE COREに映像ディレクターとして播本和宣がクレジットされての4人は、自分たちの芸術的な活動の目的を「公共空間や路上を舞台としたアートプロジェクトを展開する」ことと宣言する。この記事を読んでいる人のなかには、彼らの最近のプロジェクトの一つ、「第8回横浜トリエンナーレ『野草:今、ここで生きてる』」における横浜美術館の壁面上の巨大な「グラフィティ」と思しきカラフルなアートワークを観た人も多いかもしれない。実際、彼らはグラフィティ以来のストリートアート/カルチャーに十分に馴染みのある日本の世代に属しているだけでなく、メンバーにグラフィティアーティストもいるものの、その活動はポップアート以来ストリートアートの名の下でも続けられている旺盛な商品とセレブリティのイメージの使い回しを退ける。同展のプレスリリースによれば、SIDE COREのストリートアートとは「都市システムに対して個人として小さなヴィジョンを介入させ」、ある種の文化闘争として「国境や時代を超え」「予想できない誰かと繋がりを作り出す」試みだという。 Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『東京の通り』(2024年) 会場の「ワタリウム美術館」の展示空間最上階の天井までどころか、建築的な構造さえ利用することを含み、展示スペース内部に収まらない「CONCRETE PLANET」は、窓の外の「キラー通り」を挟んで向かいの建物へ、会期中の一時期には国道246号沿いの別会場へと展開されるが、例えば、そびえ立つ 『コンピューターとブルドーザーの為の時間』(2024年)に顕著な具体性(concreteness)を伴って、それらすべては作り出される。その意味で、SIDE COREの作品展示/介入は、電子メディアにはびこる表層的なイメージの視線の政治へ断固として距離を取る。 Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『コンピューターとブルドーザーの為の時間』(2024年) 実際の道路工事に使用されているピクトグラム/看板を集めたコラージュ『東京の通り』(2024年)は、支持体と一体化し、「工事中」の現場に置かれる作業員の人形のように、また都内のいたるところで続けられる工事そのもののようにその動きを止めることはない。向かって一方の壁側に複数の眼のごとく集められた自動車用ヘッドライトからの光は、前述のパイプ菅による大型の音響彫刻/モニュメント『コンピューターとブルドーザーの為の時』を貫き強く反射し、会場を移動する私たちの実際の鑑賞の仕草に影響を与えるだろう。これらの作品の間には、アマルガム的ともいうべき奇妙な焼き物『柔らかい建物、硬い土』(2024年)が設置されており、そこには「焼き物は人類が最初に作った産業廃棄物」であるとの説明が付けられている。 Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『柔らかい建物、硬い土』(2024年) 『柔らかい建物、硬い土』の寡黙な――つまり焼き物という存在が持つ時間に対する頑強さは、その周囲の、とりわけストリートの素材についてまわるある種饒舌な作品との違いを明らかにすることでストリートVSコンテンポラリーといった二項対立を解除しつつ、作品
能楽にインスピレーションを得た展覧会「ケからZ ー能楽、風景、観光ー」が東中野で開催中

能楽にインスピレーションを得た展覧会「ケからZ ー能楽、風景、観光ー」が東中野で開催中

中野といえば「サブカルの聖地」、またはディープな飲み屋街として有名だが、隣の東中野から南へ足を延ばすせば、閑静な住宅街が広がっている。その住宅街に能楽堂があることを知っているだろうか。東中野と中野坂上の中間に、「梅若能楽学院会館」はある。 隣接するカフェバー「なかなかの」では、能の鑑賞体験にインスピレーションを受けて企画された展覧会「ケからZ ー能楽、風景、観光ー」が2024年9月14日(土)まで開催中だ。「能楽」と聞いて身構える必要は全くない。会場で手渡されるハンドアウトのテキストには、こうある。 Photo: cnmn 「能は、現実世界と同じように、目の前で起こっていることを様々な観点から愉しみ、眺めることができます。能は上演開始の合図などが明確にあるわけではなく、お調べから徐々に演者が出揃い、おだやかに始まります。これは上演される世界と、わたしたちが生きる日常世界が、実は地続きであるということを示しています。コップの中の炭酸の気泡を眺めること、回っている洗濯機の中をずっと見ること、散歩している時に移ろっていく景色を見ること、森の中で木がざわざわしているのを眺めることと同じように、能を観た時に感じるもの、思い浮かべることは自由でいいのです」(原文ママ) 能は「この世ならざるものと出会う芸能である」といわれている。この世ならざるものが現れる世界は私たちの日常とつながっていて、自由に観て感じてよい。では、これを東中野という街に適用してみよう、という試みだ。 Photo: cnmn 展覧会は、4人のディレクターと3人のコラボレーターによるツアー、および記録展示によって構成されている。ここではコラボレーターの一人、速水一樹(はやみず・かずき)による作品『Chill bomb』と、そのツアー「山手通りの夜景をちょっとだけ高みから眺めてみる」を紹介したい。 速水は1996年生まれ。ルールや偶然性を表現に取り入れ、「遊び」の要素をもってして様々な空間に展開する作品を制作している。日常の中で見つけた物や空間が持つ秩序に、表現手段としての人為が介入することで立ち現れる「かたち」としての面白さを追求しているアーティストだ。 Photo: cnmn 展示作品『Chill bomb』は、文字通り「チル」するための装置だ。プールの監視台やテニスの審判台のような高さに設けられた椅子に、祭りの山車からヒントを得たキャスターや担ぎ棒が付いている。これを観たい景色のある地点まで運び、腰掛けて景色を眺める。期間中の展示はそのチルの記録を読み解いて行く形式だが、ツアーでは実際に『Chill bomb』を動かし、座って街を眺めることができた。 2メートル近く高さのある造作のため、動かすために最低でも5人は必要だ。まさに山車のように、参加者で協力してチルポイントまで運んで行く。ただキャスター付きの高い椅子を押して運ぶだけなのだが、それなりにボリュームがあり、動かすのにもコツがいる。そして、協力しながらでないと運べないとなると、次第に生まれてくるのが連帯感だ。何だか高揚感も湧いてくる。 Photo: cnmn 最初は自分の座る順番が来ても遠慮がちに早々と降りていたのが、後半になるにつれツアー参加者とも何となく信頼関係もでき、椅子の上で飲み物を飲んでしっかり休憩できるようになってくる。 椅子の上からは、坂道だったこともあって東京の街並みが遠くまでよく見渡せる。だがそれよりも、椅子を降りてから気付かされる視線の違いに驚く。生い茂る植栽や、中央分離帯が目に飛び込んでくる。「こ
10年ぶりの国内個展、島袋道浩「音楽が聞こえてきた」が9月23日まで開催中

10年ぶりの国内個展、島袋道浩「音楽が聞こえてきた」が9月23日まで開催中

作品の舞台となる場所や事柄に、ユーモアを持って関わっていくアーティスト・島袋道浩(しまぶく・みちひろ)。何の変哲もなさそうな風景から、生き生きとしたストーリーが見えてくる。そんな島袋の作品を紹介する展覧会「音楽が聞こえてきた」が横浜・新高島駅直結の「BankART Station」で開催されている。ひとたび作品を体験してしまったなら、帰り道までもがきっと楽しくなるはずだ。 島袋はベルリンで長く活動していたため、国内での個展は10年ぶりとなる。島袋作品と筆者の出会いもちょうどそのころだ。段ボール箱が自分の「人生」ならぬ「箱生」を関西弁で語る『箱に生まれて』(2001年)を見て、現代アートにこんな楽しい作品があるのかと、美大生ながら衝撃を受けた記憶がある。 Photo: cnmn『音楽家の小杉武久さんと能登へ行く(見附島)』(2013年) 本展に出品されているのは、展覧会タイトルの通り、音楽にあふれた作品たちだ。これまで島袋は、野村誠や小杉武久、アート・リンゼイ(Arto Lindsay)など、多くの音楽家とコラボレーションを行ってきた。本展では、通路やカフェなども使い、音と映像を中心とした作品13点を展示している。ここでは特に、『ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした』(2006年)を紹介したい。 「ヘペンチスタ」というのは、即興で詩を歌うブラジルの吟遊詩人のことだそうだ。吟遊詩人というと、しっとりとロマンチックに歌い上げるイメージがあるが、このヘペンチスタは違う。体が思わず動いてしまうようなリズムで、ノリノリで歌ってくれるのである。本作は、タイトルの通り、そのヘペンチスタに島袋自身による「タコの作品」についてリミックスを依頼したものだ。 「タコの作品」とは、『そしてタコに東京観光を贈ることにした』(2000年)と『自分で作ったタコ壷でタコを捕る』(2003年)の2作品のことで、こちらもタイトルそのままの行動が映像に収められている。そう聞くと「それが何になるんだよ」と思うかもしれない。その通り、何にもならずに、最初のタコはすぐに死んでしまうし、捕まえたタコもそこにいた人々に紹介(?)したら海に返すだけだ。 それでも、映像の中の島袋は、タコとの出会いを喜び、別れを惜しんでいるようにさえ見える。つまり、とても楽しそうなのだ。「ああ、タコか」と何の感慨も持たず流すのか、「おお!タコだ!」と素直な感動を受け入れるのか。「おお!タコだ!」と思うことの楽しさを教えてくれる作品たちだ。 Photo: cnmn『ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした』(2006年) ヘペンチスタの作品に戻ると、肝心のリミックスではディスコミュニケーションがあちこちで発生している。「SHIMABUKUはすごい漁師だ」とか。タコを捕っているとなれば漁師に見えるのも仕方ないが。でも、それでもいいのだきっと。一般的に、コミュニケーションに必要とされるような相互理解ということは、ここでは求められていない。何かポジティブな感情を交換するとか、差し出すとか、勝手に受け取るとか、そういうことが大事なのだろう。 島袋が本展の作品で取り組んでいる「音楽」というものも、そういうものなのかもしれない。たとえば、雨音とのセッション。たまたまそこにあるリズムと演奏を合わせてみる。たまたま出会った遠い異国のリズムに踊り出したくなる――。 Photo: cnmn『キューバのサンバ』(2015年) 目の前にあるのに見えてい
取り壊される旧松本市立博物館で最後のイベント、「マツモト建築芸術祭」が今年も開催

取り壊される旧松本市立博物館で最後のイベント、「マツモト建築芸術祭」が今年も開催

2022年に始まった「マツモト建築芸術祭」の3度目となる開催が決定した。長野県松本市にある複数のノスタルジックな建築物などを会場に、アートを楽しむことのできる同イベント。今回は「マツモト建築芸術祭2024 ANNEX」と題して、国宝「松本城」の敷地内、二の丸に位置する「旧松本市立博物館」をメイン会場として開催される。 Photo: Kisa Toyoshima池上百竹亭 茶室×ステファニー・クエール(2023年度の展示)  「名建築にアートが住み着くマツモトの冬。」をコンセプトに掲げる同イベントでは、古い建築を活用することに力を入れており、これまでにも「旧開智学校」「割烹 松本館」といった国登録有形文化財や、廃業した映画館「上土シネマ」などユニークな建物を会場としてきた。今回のメイン会場となる旧松本市立博物館も2021年に休館しており、取り壊し前の最後のイベント開催となるそうだ。 Photo: Kisa Toyoshima割烹 松本館×福井江太郎(2023年度の展示) 過去には鴻池朋子や石川直樹、土屋信子、河合政之、五月女哲平、鬼頭健吾などの作品が出展されてきた。今回の参加アーティストについては現時点で未発表だが、図書館や博物館、ホテルなどを被写体とした作品で知られるドイツの写真家、カンディダ・ヘーファー(Candida Höfer)がメインビジュアルを手がけている。 一般入場料2,000円の旧松本市立博物館のほか、2023年10月に新たに移転オープンした「松本市立博物館」や信毎メディアガーデンなども入場無料の会場となる。会期は2024年2月23日(金)〜3月24日(日)の31日間。出展作家などの詳細な情報については続報を待ちたい。 関連記事 『マツモト建築芸術祭』 『7万パックの苺で作った大人のためのメルヘンワールドがヒルトン東京に出現」 『マツモト建築芸術祭でしかできない6のこと』 『松本は「屋根のない博物館」、新たな文化拠点となる博物館がオープン』 『麻布台ヒルズの新たな「チームラボボーダレス」4つの新作とは?』 『帝国ホテル二代目本館を設計したフランク・ロイド・ライトの回顧展が汐留で開幕』 東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
須藤玲子「NUNO」の大規模展が開催、ディレクションには齋藤精一

須藤玲子「NUNO」の大規模展が開催、ディレクションには齋藤精一

「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」「メトロポリタン美術館」「ヴィクトリア&アルバート博物館」など、世界の名だたるミュージアムに作品が収蔵されているテキスタイルデザイナー・須藤玲子の大規模個展「須藤玲子:NUNOの布づくり」が茨城県水戸市で開催される。 須藤率いるテキスタイル・デザインスタジオのNUNOが、40年にわたって生み出してきたユニークな作品を紹介する同展。2019年に香港のアートセンター「Centre for Heritage, Arts and Textile(​CHAT​)」で企画・開催され、「ジャパン・ハウス ロンドン」やスイスへ巡回したものだ。 展示風景:「Sudo Reiko: Making NUNO Textiles」CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020 ©CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile) Hong Kong テキスタイルプランナーの先駆者だった新井淳一らとともに、1980年代に須藤が立ち上げたテキスタイルブランド「NUNO」は、日本各地の伝統的な染織技術や職人らとの協業にこだわりながら、最先端技術を駆使した素材開発など、常に革新的なテキスタイルづくりに取り組み、国際的な注目を集めてきた。環境問題や、布の再生・再利用にもいち早く目を向けて活動してきたことでも知られている。 「布づくり」の舞台裏をインスタレーションで紹介  本展は、須藤が手がけた代表作のテキスタイルだけではなく、デザインの源泉や制作過程からテキスタイルデザインに注目。デザインの着想源からドローイング、原材料や製作サンプル、職人との試行錯誤、生産の過程まで、普段見ることのできない布づくりの舞台裏を公開する。 また、音や映像で「布づくり」のプロセスを紹介するインスタレーションも登場。工場での生産の様子を、臨場感をもって知ることができるだろう。会場構成は建築家のたしろまさふみが担当。アーティスティックディレクションには、ライゾマティクスでの活動で知られる齋藤精一(現パノラマティクス主宰)が加わる。 《糸乱れ筋》に用いられるニードルパンチ機(部分)展示風景:「Sudo Reiko: Making NUNO Textiles」CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020 ©CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile) Hong Kong 磯崎建築に現れる「水戸黒」の新作 さらなる見どころは、磯崎新が設計した大空間に現れる、遊び心あふれるインスタレーション「こいのぼり」だ。本展では、色とりどりのNUNOオリジナルテキスタイルに加え、下地に使われる藍染めの青みがかった独特な色が特徴の「水戸黒」の特別なこいのぼりを新たに制作・展示する。水戸黒は江戸初期から水戸藩に伝わる染色技法で、大正時代に化学染織の普及によって途絶えた。しかし水戸市内の職人や地元の人々が、1970年代から再現と継承に取り組んでいる。 海外を巡回してきた本展だが、国内では香川県の「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」での展示を経て、須藤の出身地である茨城県内で満を持しての開催が実現した。会場となる「水戸芸術館現代美術センター」は、本展を企画したCHAT館長兼チーフキュレーターの高橋瑞木が、2003~16年に主任学芸員として勤務していたところでも
「パラ」の枠を越えて、スローレーベルと蓮沼執太の新プロジェクト

「パラ」の枠を越えて、スローレーベルと蓮沼執太の新プロジェクト

音楽家の蓮沼執太とNPO法人スローレーベルによる新しいプロジェクト「アースピースィーズ(Earth∞Pieces)」の始動に伴い、スローレーベルの芸術監督・栗栖良依と蓮沼によるオンライントークサロンが2023年12月20日に開催された。「多様性と調和」をうたい、さまざまなパフォーマンスを展開してきたスローレーベルにとっても初となる音楽プロジェクトについて、誕生の背景や2030年までの長期継続を見据えた展望などが語られた。 画像提供:認定NPO法人スローレーベルEarth∞Pieces 栗栖といえば、「2020パラリンピック」の開閉会式でステージアドバイザーを務めたことで知られている。多くの人が関わる大舞台で、多種多様な身体的特徴や思考の特性を備えたパフォーマーたちが存分に才能を発揮できるよう尽力した。「障害者だから」「障害者なのに」といったことではない、純粋にパフォーマンスとしての高い評価を得た背景に、「スロームーブメント」などの作品を通して培ってきたスローレーベルの蓄積があったろうことは想像に難くない。 画像提供:認定NPO法人スローレーベル栗栖良依 蓮沼の多岐にわたる活動については言わでものことだが、栗栖との接点としては、2020パラリンピック開会式のために楽曲「いきる」を提供している点が挙げられる。「蓮沼執太フィル」としても数多くの人々との演奏を続けているが、「大地の芸術祭」で有名な新潟県十日町市で行われたプロジェクトに栗栖はとりわけ着目した。「そこは、小学校と支援学校、発達支援センターが一つになった珍しい施設です。一人一人が、楽器演奏だけじゃない自由な表現をできる」場になっていたと栗栖は話す。 画像提供:認定NPO法人スローレーベル蓮沼執太 自身も行政による助成金や「パラリンピック」という大きな後ろ盾がある中で活動を続けてきたことを振り返り、「アクセシビリティとサステナビリティの両立」が難しいと感じたという。「パラリンピックがあって、『パラ』という文脈でアクセシビリティに配慮したイベントは増えました。しかし、多くは助成金に依存していてサステナビリティがない。一方で、収益を上げていて持続性のあるものは、(障害に対する)合理的配慮が行き届いていないことがほとんどです」。既存の構造下での両立は困難だから、と企画したのが今回のプロジェクトだ。 Photo: Keisuke TanigawaSLOW MOVEMENT ーThe Eternal Symphony 1st mov.ー SDGs(Sustainable Development Goals)を引き合いに出しながら、栗栖は「真の多様性」のためにはアクセシビリティとサステナビリティの両立こそが重要とも語った。たしかにSDGsという言葉は、さまざまな社会課題が相互に関連しているということを含意している。SDGsの中のどれか1項目に取り組めばそれでいいということではなく、全てを包括的に改善するのでなければ解決はないということだ。 その意味で、「パラ」という文脈に縛られながらの助成金に依存した活動に行き詰まりを感じたのかもしれない。スローレーベルが2014年から2020年までの3回にわたって取り組んできた「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」についても、開催当初から「3回で終える」と発言してきた裏には、「パラ」という枠組みを取っ払い、全ての人々が同じ土俵で表現することを目指してきたからだろう。 画像提供:認定NPO法人スローレーベル そのような意気込みで始まる本プロジェクトの骨子は、公
テーマは「SOURCE」、KYOTOGRAPHIE 2024のラインナップ発表

テーマは「SOURCE」、KYOTOGRAPHIE 2024のラインナップ発表

2024年で12回目の開催となる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024」の参加アーティストが発表された。建仁寺などの寺院や新聞社ビルの地下室など、京都市内各地のユニークなヴェニューを会場に、国内外のアーティストを幅広く紹介してきたKYOTOGRAPHIE。 報道写真やファッション写真から、写真というメディアの在り方に迫るメタ的な作品まで、写真イメージを巡るさまざまな作品を展示する、国内でも唯一無二の芸術祭だ。2023年は音楽イベント「KYOTOPHONIE」としてマリ共和国のレジェンド、サリフ・ケイタ(Salif Keïta)のライブなども開催し、大きな話題を呼んだ。 Viviane Sassen, Eudocimus Ruber, from the series Of Mud and Lotus, 2017 © Viviane Sassen and Stevenson (Johannesburg / Cape Town / Amsterdam)   2024年は「SOURCE」をテーマに、生命や世界の源を探求するような展覧会を開催する。13あるメインプログラムの作家としては、ファッションフォトグラファーとしても目覚ましい活躍を見せるヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)や、ピカソのヌード写真を撮影したことでも知られるルシアン・クレルグ(Lucien Clergue)など、有名アーティストが発表されている。   Nirto, Dadaab Refugee Camp, Kenya, from the series Where Children Sleep ©︎ James Mollison 南米アマゾンのヤノマミ族の暮らしを記録するとともにその文化と権利の保護に取り組んできたクラウディア・アンドハル(Claudia Andujar)や、学校の校庭や子ども部屋を通して世界中の子どもたちが置かれた複雑な状況を想起させるジェームズ・モリソン(James Molison)、「パリ国立自然史博物館」にコレクションされた植物の種子を魅惑的なイメージで提示するティエリー・アルドゥアン(Thierry Ardouin)などの作品も展示される。  Untitled, from the series "as it is", 2020 ©︎ Rinko Kawauchi 日本からは、写真集「地図」で日本写真史に名を刻む川田喜久治のほか、潮田登久子、川内倫子などが参加する。イラストレーターのしまおまほの母である潮田による「My My Husband」シリーズは、夫である作家の島尾伸三や娘との生活を冷静に見つめた潮田自身の原点ともいえる作品だ。 Tokuko Ushioda (1940) From the series My Husband ©Tokuko Ushioda, Courtesy PGI そのほか、KYOTOGRAPHIEの関連プログラムである「KG+」の昨年の開催時に話題となった、インドのトランスジェンダーシーンに取材したジャイシング・ナゲシュワラン( Jaisingh Nageswaran)や、モロッコでブレイクダンサーとしても活動するヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イズマイーリ)なども参加する。 ©︎ Yoriyas (Yassine Alaoui Ismaili) 会期は2024年4月13日(土)〜5月12日(日)。2014年もKYOTOGRAPHIEらしい、未知の世界を伝えてくれる展覧会が期待できそうだ。
建築や映像好きは見逃せない作品ばかり「京都建築映像祭 2023」

建築や映像好きは見逃せない作品ばかり「京都建築映像祭 2023」

例年より少し遅い紅葉の見頃を迎えようとしている京都で、建築好きにも映像好きにも魅力的なイベント「京都建築映像祭 2023」が開催されている。 今年で3回目となる「京都建築映像祭(KAFF)」は、「Kyotographie」や「Kyoto Experiment」をはじめ、素晴らしい文化イベントがめじろ押しの京都にあっては知名度や規模の点でこそまだまだ発展段階ではあるものの、初回の2021年にはフランスを拠点に活動する映像作家ベカ&ルモワンヌが、日本を代表する建築家の西沢立衛に取材したドキュメンタリー「TOKYO RIDE」を日本初上映するなど、どちらかというと玄人向けの刺激的なプログラムを毎度提供している。 画像提供:京都建築映像祭過去の開催風景 プログラムディレクターを務める写真家の田村尚子は、「医者」と「患者」の関係を捉え直すことで精神病院の在り方に一石を投じたフランスのラ・ボルド病院を撮影した写真集「ソローニュの森」などで国際的にも高い評価を得ている。 ラ・ボルド病院は、哲学者ジル・ドゥルーズ(Gilles Deleuze)との一連の著作で現代思想の流れを大きく変えた精神科医フェリックス・ガタリ(Félix Guattari)が終生関わり続けたことでも知られる伝説的な病院だ。「ソローニュの森」においてもすでに見られた写真と建築の関係に対する田村自身の関心が、実践の場として展開されているのが「京都建築映像祭」といえよう。 本展は、京都市京セラ美術館開館1周年記念「モダン建築の京都」展の関連プログラムとして開催された、第1回ル・コルビュジエの未来志向な集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」やメタボリズム建築に光を当てた第2回に続いて、今回は「未完の空間|建築とアーカイブ」と銘打ち、建築や都市、空間のアーカイブについて、国内外の作家や研究者を招いて思考を巡らせる。 2023年11月24日には、アーカイブの一つの形として、建築にまつわる書籍をオリジナルのコーヒーとともに楽しめるライブラリー空間「KAFFライブラリー|本の空間」が、四条烏丸のビル一室にオープンした。 画像提供:京都建築映像祭KAFFライブラリー|本の空間 優れた耐久性や環境への負荷の軽さなどから、木造の高層建築の材料としても注目を浴びているCLT(直交集成板)材を用いた什器に並ぶのは、ルイス・カーン建築の研究でも知られた故・前田忠直(京都大学名誉教授)の貴重な蔵書をはじめ、美術書や建築書籍を中心にセレクトされた稀覯本および関連書籍など。 12月10日(日)までとなる会期中には、CLT材の可能性についてのトークイベントや、12月2日(土)に新大宮広場で野外上映を行うシンガポールの映像作家によるレクチャーなどのイベントも、同所で開催予定だ。 メインコンテンツの一つとして注目したいのが、リトアニアの現代美術作家ダイニュス・リシュケーヴィチュスによる作品「The Moden Flat」だろう。リトアニア代表として「ヴェネツィア・ビエンナーレ」への参加経験もあるリシュケーヴィチュスによって2023年に作られた同作は、作家自身や家族の日常的な生活と創作の風景が入り混じり、それらが展開する舞台である家そのものが主役となるような実験的なドキュメンタリー作品だ。 リトアニア出身の映像作家というとジョナス・メカス(Jonas Mekas)が真っ先に思い起こされるが、ほぼ半世紀の隔たりのある1970年生まれのリシュケーヴィチュスによる日本初公開の新作にも期待が高まる。12月9日(土)、京都国立近代美術館の
世界的デザイナー、倉俣史朗の全貌に迫る展覧会が「世田谷美術館」で開催

世界的デザイナー、倉俣史朗の全貌に迫る展覧会が「世田谷美術館」で開催

透明なアクリルの椅子にいくつものバラの造花が閉じ込められた「ミス・ブランチ」、建築現場での足場などに用いられるエキスパンドメタルのみを素材として軽やかさを表現した「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」などで、20世紀のデザイン史に大きな足跡を残した伝説的なインテリアデザイナー、倉俣史朗の大規模個展が「世田谷美術館」で開催されている。 Photo:Kisa Toyoshima左から「トワイライトタイム」(1985)、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」(1986) キャリアの絶頂期ともいうべき56歳の若さで倉俣がこの世を去った1991年から30年以上の年月が流れた現在、天才の仕事の数々をまとまった量で観られる本展はとても貴重なものといえよう。 Photo:Kisa Toyoshima左から「ランプ(オバQ)[大]、[小]」(1972)、「光の椅子」(1969)、「光のテーブル」(1969) 2013年に埼玉県立近代美術館で開催された展覧会「浮遊するデザイン-倉俣史朗とともに」では、高松次郎などの倉俣と交流があった美術作家や、クラマタデザイン事務所出身のデザイナーによる作品などもあわせて展示。そちらも興味深い内容であったが、今回は純粋に倉俣のみにフォーカスを絞っている点で満足度の高い展覧会となっている。 Photo:Kisa Toyoshima展覧会風景 展覧会場に足を踏み入れると、まず先述の「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」などとともに、「スターピース」の愛称で知られ、倉俣を代表するイメージの一つとして親しまれている、人造大理石に色とりどりのガラスをちりばめた素材で作られたテーブル「トウキョウ」などが広々と配置されていて、開始早々に贅沢な空間を楽しむことができる。 Photo:Kisa Toyoshima 大きな窓から砧公園の豊かな緑を望むことのできる同室は、日の移ろいとともに差し込む光の質感も変化していくので、夕暮れ時など異なる時間を狙って何度も訪れてみるのもいいだろう。 Photo:Kisa Toyoshima展覧会風景 バーやブティックなど、数多くの商業空間でのデザインを手がけた倉俣。なかでも、福岡市のホテル「イル・パラッツォ」はアルド・ロッシ(Aldo Rossi)による設計でも名高いが、4つあったホテルバーのデザインを、倉俣や、倉俣も参加した国際的なデザイナー集団「メンフィス」の中心的メンバーのエットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)らが担当したことでも話題を集めた。 Photo:Kisa Toyoshima 倉俣が手がけたバー「オブローモフ」をはじめ、今はほとんどが失われてしまった内装デザインの数々も、スライド写真で楽しむことができるが、何と言っても本展のクライマックスは「ミス・ブランチ」など、アクリル素材を巧みに使用した作品を多数発表した、最晩年の仕事を紹介する最後の展示室だ。 Photo:Kisa Toyoshima「ミス・ブランチ」(1988) カラーアルマイト処理されたアルミパイプとアクリルでできた脚に乗る4点のビー玉がオパールガラスの天板を危うげに支えるテーブル「ブルーシャンパン」や、わずかに着色されたアクリル樹脂のみで構成された姿がまるで光そのものがそのまま形を取ったかのような印象さえ与える「カビネ・ド・キュリオジテ」など、倉俣を代表する作品が一堂に会する様子はまさに圧巻だ。 Photo:Kisa Toyoshima展覧会風景 56脚しか制作されなかったという「ミス・ブランチ」にいたっては、富山県美術館やアー
「日本中の美術館がまねするだろう」、村上隆の8年ぶり大規模個展が京都で開催

「日本中の美術館がまねするだろう」、村上隆の8年ぶり大規模個展が京都で開催

世界的なアーティスト、村上隆による個展「村上隆 もののけ 京都」の開幕まで3カ月を切った2023年11月14日、京都が誇る花街「祇園甲部」の歌舞練場において、同展の記者発表会が大々的に行われた。東京の「森美術館」で開かれた「村上隆の五百羅漢図展」以来、日本国内では実に8年ぶりとなる大規模個展が京都で開催されることを祝すように、同会は京都固有の日本舞踊「京舞」の披露によって幕を開けた。 Photo: Sakura Fushiki 現代美術展の記者発表会としては異例のオープニングだが、村上は自身の芸術と京舞との間に通底する共通点を指摘する。「ファッションデザイナーのNIGOさんに連れられて、芸姑祇園甲部の(げいこ)や舞妓(まいこ)が京舞を披露する『都をどり』観た時に、いたく感銘を受けました。奥行きのない舞台にもかかわらず深い奥行きを感じさせる舞台は、私の提唱する『スーパーフラット』という概念に通ずるものがあります」 Photo: Sakura Fushiki 村上自身が企画し、2000〜2001年に日本やアメリカを巡回した展覧会「スーパーフラット」では、日本美術史上のさまざまな時代に現れる平面性の強い表現を、アニメやキャラクター文化などに代表されるポップカルチャーや消費主義と結びつけたことが大きな話題に。毀誉褒貶(きよほうへん)を伴いながらも結果として世界の現代美術シーンに無視できない影響を与えた。本展でも、曾我蕭白や俵屋宗達など、主に江戸時代の京都に縁の深い絵師たちによる作品を、独自に解釈・再構築した新作が多数公開される。 Photo: Sakura Fushiki 記者会見で村上とともに登壇した「京都市京セラ美術館」事業企画推進室の高橋信也について、村上は「私が監督だとすると、脚本家を務めたのが高橋さん」と話す。1970年代後半から1980年代を通して、日本の先鋭的な文化をけん引したセゾングループの美術系書店「アール・ヴィヴァン」を経て「NADiff」を立ち上げた高橋は、京都生まれということもあり、美術にも京都の歴史にも深い知識を持つ。 Photo: Sakura Fushiki そんな高橋から村上に対して、「洛中洛外図」などの京都の美術史における重要なテーマを、いわば「お題」を出されるようにして準備が進められてきた本展において、出品される約170点のうち大部分を占める160点ほどが新作というから、両者の展覧会への意気込みがうかがい知れよう。 Photo: Sakura Fushiki 日本美術史に対して、村上自身は「狩野派がなくなって以降、観るべきものはほとんどない。というのは、その1枚の絵を観るためのツアー展が海外からオファーされることがない、ということです。私は学生時代からそのことを重く考えてきました」と語る。 「芸術起業論」などの著書でも、世界に対して作品をいかにブランディングしていくかの試行錯誤を説いている村上は、本展でも「ふるさと納税」を利用したチケット販売や、大規模な特設ショップの展開など、作品外の仕掛けにも注力しているという。「この展覧会が成功したら、日本中の美術館がまねするようになる」と、自信を見せた。 そのように集客や売上に目を配る一方で、「私の作品を本当に理解できる人は世界に50人ほどしかいない。そういう、芸術を観る目の肥えた人に恥じないような作品を私は作っている」とも語る。 記者発表会で配られたものの中には、村上版「風神雷神図」の風神と雷神をかたどったアイシングクッキーなども含まれていた。「かつて俵屋宗
松本は「屋根のない博物館」、新たな文化拠点となる博物館がオープン

松本は「屋根のない博物館」、新たな文化拠点となる博物館がオープン

2023年10月7日、長野県松本市に「松本市立博物館」がオープンした。同館は、日露戦争へと出征した「開智学校」の卒業生たちが持ち帰った資料を保存・展示する施設として1906年に開館した「明治三十七、八年戦役紀念館」にルーツを持つ。 これまでにも幾度の移転を経てきたが、松本城の二の丸にあった施設を2021年に休館。かつて三の丸があったエリアへと場所を移し、市民や観光客にとってより親しみやすい博物館として装いを新たにした。 本記事では、博物館に収蔵されている資料だけに注目するのではなく、松本市全体が「屋根のない博物館」とコンセプトに掲げる同館の魅力を紹介する。 Photo: Yuki Yokosawa JR松本駅に降り立った観光客の多くが、国宝にも指定されている「松本城」へと向かう際に通る大通り沿いに新築された同館は、近隣の建築と比べても低い3階建てだ。開放感のあるガラス窓に覆われたファサードで、歴史を感じさせる町並みに威圧感を与えることなくマッチしている。 Photo: Yuki Yokosawa 21時まで使用できる1階部分には、松本市で人気のコーヒースタンド「ハイファイブコーヒースタンド(High-Five COFFEE STAND)」が運営するカフェが入居しており、椅子にも松本民芸家具が使われているなど、新旧織り交ぜた同市の魅力が感じられるようになっている。 Photo: Yuki Yokosawa 標高の高い地域特有の澄んだ光が、天井まで届く大窓から差し込むロビーには、同地に伝わる手工芸品「松本てまり」をモチーフとしてあしらったモビールが備え付けられている。 江戸時代には、主に童女の遊具として全国的に親しまれていた「手まり」だが、ここ松本では色や柄に特徴のあった「松本てまり」の再現に注力してきた歴史がある。ともすると武家の町という印象の強い松本城下町に、愛らしい印象を添えるシンボルとして市民からも親しまれてきた。 Photo: Yuki Yokosawa 松本城下町の巨大ジオラマを常設展 肝心の展示では、この度、新たに制作された松本城下町の巨大ジオラマが常設展示されている。 Photo: Yuki Yokosawa 現在の松本市街地は明治期の大火や近現代の開発によって大きく変わっており、江戸時代から続く松本城下町の姿を正確に伝えるものではない。そこで今回の博物館リニューアルに当たり、江戸時代後期の城下絵図をもとに古い写真や建築図面などの情報を市民に広く募り、ジオラマ制作に乗り出したという。そうして完成したジオラマは、縮尺が約300分の1、縦約8.6メートル、横約5.2メートルという、城下町のジオラマでは最大級の規模に仕上がった。 Photo: Yuki Yokosawa そのほか、温泉についての資料が豊富な「開かれた盆地」や、今なお続く新春の名物行事「松本あめ市」を紹介する「にぎわう商都」など、8つのテーマで構成される常設展示には、最奥部に「ともにある山」コーナーが設けられ、「岳都」としての松本の魅力を多角的に取り上げている。 Photo: Yuki Yokosawa Photo: Yuki Yokosawa 先述の松本てまりや「みすず細工」など、工芸の町でもある松本の手工芸品についても、同館3階にある常設展示でつぶさに学ぶことができる。 Photo: Yuki Yokosawa 2階は特別展示室となっており、その時々の企画による展示を行う。12月10日(日)まで開催中の特別展では、生産量が日本一であ
真鍋大度4年ぶりの個展「EXPERIMENT」について知っておきたい5のこと

真鍋大度4年ぶりの個展「EXPERIMENT」について知っておきたい5のこと

アート作品として結実させることで、最先端テクノロジーの可能性を世に提示し続けているクリエーティブチーム「ライゾマティクス」の代表を務める真鍋大度。国内外でさまざまな賞を受賞し、世界的な評価を高めている真鍋による4年ぶりの個展が、山梨県の北杜市で2023年5月10日(水)まで開催されている。 「清春芸術村」にある「光の美術館」をメイン会場として開催される同展は、決して大規模な空間インスタレーションを楽しめるような展覧会ではないが、稀代のクリエーター真鍋の現在進行系の思考をたどることができる。 Photo:Kisa Toyoshima光の美術館 1. 粘菌の動きに取り込まれる。 メイン会場である光の美術館に入ると正面に見えてくるディスプレー上で展開されているのは、「粘菌」のユニークな振る舞いからインスピレーションを受けた作品『Telephysarumence』だ。民俗学や生物学など、さまざまな分野で並外れた才能を発揮した博物学者、南方熊楠による研究で知られ、研究者のみならずファンの多い粘菌だが、特定の生物種を指す言葉ではない。 Photo:Kisa Toyoshima『Telephysarumence』 ここでは、脳を持たないにもかかわらず、周囲の環境にも影響されながら集団を自己組織化していくという、粘菌の独特な動きにフォーカスを当てている。来場者の動きを解析し、粘菌のシミュレータに入力することで、インタラクティブな映像と音声を生成する。 Photo:Kisa Toyoshima 2. 真鍋大度の実験に加わる。 前項で紹介した『Telephysarumence』でも、コンピューター上で粘菌の動きを模倣するシミュレータではなく、ゆくゆくは遠隔地に生きる本物の微生物とのインタラクションを目指しているとのことだが、本展では、そのような思考の過程とも呼ぶべき作品が4つ展示されている。 Photo:Kisa Toyoshima作品を解説する真鍋大度 『dissonant imaginary』という作品では、人間の脳活動を機械学習によるパターン認識で解析することで、心の状態を解読することを目指す「ブレイン・デコーディング」と呼ばれる技術を用いて、真鍋が制作した音楽を聴いた被験者の脳情報から生成した映像をディスプレーに表示している。 Photo:Kisa Toyoshima『dissonant imaginary』と『Cells:A Generation』 ラットの神経細胞が環境を学習していく仕組みを用いて絵を描かせるという作品『Cells: A Generation』では、本物そっくりの形状になるように細胞を培養させる「オルガノイド」という技術を用いて、いずれ真鍋自身の脳オルガノイドによって画像や音楽を生成させることが目指されている。 このように、記者会見で真鍋自身が「言い訳めいた」と話す個展タイトル『EXPERIMENT』の通り、完成度の高い大作というよりは、今まさにリアルタイムで進行している「実験」といった方が適切な展覧会ではあるが、今後の真鍋の活動を考える上で興味深いものになっている。 3. 光の美術館は低レイテンシで眺める。 Photo:Kisa Toyoshimaサテライト会場の様子 サテライト会場の「長坂コミュニティ ステーション」にも展示されている『Teleffectence』は、同地とメイン会場を、ソフトバンクの最先端の通信技術で結ぶ作品だ。「レイテンシ」と呼ばれるデータを転送する際にどうしても生じてしまう遅延時間は、