荏開津広(えがいつ・ひろし)

執筆/DJ/京都精華大学、東京藝術大学非常勤講師。東京の黎明期のクラブP.PICASSO、MIX、YELLOWなどででDJを開始、以後ストリート・カルチャーの領域におき国内外で活動。執筆とDJ以外にはSIDECORE『身体/媒体/グラフィティ』(2013年)キュレーション、PortB『ワーグナー・プロジェクト』音楽監督、市原湖畔美術館『RAP MUSEUM』制作協力など最近は手がける。翻訳『サウンドアート』(木幡和枝、西原尚と共訳、2010年、フィルムアート社)

Hiroshi Egaitsu

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解体予定のビルに必見のグラフィティアート、荏開津広が語る「ART GOLDEN GAI」

解体予定のビルに必見のグラフィティアート、荏開津広が語る「ART GOLDEN GAI」

渋谷駅南口から徒歩約5分、恵比寿や代官山からも中間地点でアクセス可能な建造物が、老朽化のために2025年2月に解体される。現在、その10階建て、50戸にも渡る空間を丸ごと使ったアートイベント「ART GOLDEN GAI by NoxGallery x Superchief x Brillia」が開催中だ。 主催は、東京建物株式会社、そして同ビル1階にあるNOX GALLERYを運営するエフ広芸。東京の混沌(こんとん)としたキャラクターを鮮やかにアートとして観客に問うことに成功を収めたこのイベントに、まずは拍手を送りたい。 Photo: JOJI SHIMAMOTOART GOLDEN GAI 全景 ビル1棟を丸ごとアートの場を化すだけでなく、東京のNOX GALLERYとNY/LAの「Superchief Gallery」とのコラボレーション的なキュレーションでもあるこの展示に参加したアーティストは、なんと数十人にも及ぶ。そもそも賃貸マンションだった同建物の各部屋を、彼らがギャラリーや美術館の展示室さながら、アートの現場に変貌させるのが「ART GOLDEN GAI」である。 エントランスから各階のいわゆる共有部分は、『ジョーカー』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』など多くのハリウッド映画やテレビに背景美術家(シーニックアーティスト)として参加したAmanda Hagyがプロデュースをして、「NEO TOKYO」「JAPANESE VILLAGE(日本の伝統的な村)」「Burnout(焼け跡)、それに「Dekotora(デコトラ)」など各階ごとにテーマが設けられ、それぞれに足を踏み入れるとそこからまた映像展示もあればインスタレーションもというその多様なスタイルの変化は、観客を飽きさせない。 Photo: JOJI SHIMAMOTOバーンアウト(Burnout)フロア 「ART GOLDEN GAI」という名前は、新宿は歌舞伎町一丁目の一角、250軒以上の小さなバーなど飲食店を中心にさまざまなスペースが約2000坪の狭い空間にひしめく地域の通称「ゴールデン街」に由来する。第二次世界大戦後まもなく闇市としてその歴史の幕は開き、文学・美術・音楽などカルチャーの香り高い坩堝(るつぼ)として、現在では多くの観光客も引き寄せるグローバルに人気なスポットである。 Photo: JOJI SHIMAMOTOジャパニーズ・ヴィレッジ・フロア(JAPANESE VILLAGE) そもそも、東京の大きな魅力は「ゴールデン街」のようにグローバルに比較してもダイナミックでありながら、ほかの都市では体験できないユニークなカルチャー/アートを体験できるところにある。ここでは「ART GOLDEN GAI by NoxGallery x Superchief x Brillia」、その目玉のひとつと思われる6階はグラフィティのフロアを少しだけ紹介しよう。 Photo: JOJI SHIMAMOTO6Fの廊下の様子 1970年代のニューヨークのストリートで激しく発達したグラフィティは、1980年代には既に現代美術のギャラリーへ持ち込まれ、グラフィティの背景を持ったジャン=ミシェル・バスキアなど今や日本でもお馴染みのスーパースターを生み出し、世界中に広まったのはご存知の通り。 ここではなんと、1990年代以降のグラフィティ/ストリートアート/コンテンポラリーアートを考えるときにグローバルに外せないアーティストたちの作品や足跡を一気に楽しむことが可能だ。  まず
荏開津広が語るSIDE CORE「CONCRETE PLANET」に見るストリートとは

荏開津広が語るSIDE CORE「CONCRETE PLANET」に見るストリートとは

アートチーム「SIDE CORE」による彼ら自身の名義では初となる東京での個展「CONCRETE PLANET」は、これまでの決して短くない彼らの活動を振り返る集大成であると同時に、日本の現代美術シーンにおいて現在進行中の注目すべき動きについての展示である。 高須咲恵、松下徹、西広太志からなるSIDE COREに映像ディレクターとして播本和宣がクレジットされての4人は、自分たちの芸術的な活動の目的を「公共空間や路上を舞台としたアートプロジェクトを展開する」ことと宣言する。この記事を読んでいる人のなかには、彼らの最近のプロジェクトの一つ、「第8回横浜トリエンナーレ『野草:今、ここで生きてる』」における横浜美術館の壁面上の巨大な「グラフィティ」と思しきカラフルなアートワークを観た人も多いかもしれない。実際、彼らはグラフィティ以来のストリートアート/カルチャーに十分に馴染みのある日本の世代に属しているだけでなく、メンバーにグラフィティアーティストもいるものの、その活動はポップアート以来ストリートアートの名の下でも続けられている旺盛な商品とセレブリティのイメージの使い回しを退ける。同展のプレスリリースによれば、SIDE COREのストリートアートとは「都市システムに対して個人として小さなヴィジョンを介入させ」、ある種の文化闘争として「国境や時代を超え」「予想できない誰かと繋がりを作り出す」試みだという。 Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『東京の通り』(2024年) 会場の「ワタリウム美術館」の展示空間最上階の天井までどころか、建築的な構造さえ利用することを含み、展示スペース内部に収まらない「CONCRETE PLANET」は、窓の外の「キラー通り」を挟んで向かいの建物へ、会期中の一時期には国道246号沿いの別会場へと展開されるが、例えば、そびえ立つ 『コンピューターとブルドーザーの為の時間』(2024年)に顕著な具体性(concreteness)を伴って、それらすべては作り出される。その意味で、SIDE COREの作品展示/介入は、電子メディアにはびこる表層的なイメージの視線の政治へ断固として距離を取る。 Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『コンピューターとブルドーザーの為の時間』(2024年) 実際の道路工事に使用されているピクトグラム/看板を集めたコラージュ『東京の通り』(2024年)は、支持体と一体化し、「工事中」の現場に置かれる作業員の人形のように、また都内のいたるところで続けられる工事そのもののようにその動きを止めることはない。向かって一方の壁側に複数の眼のごとく集められた自動車用ヘッドライトからの光は、前述のパイプ菅による大型の音響彫刻/モニュメント『コンピューターとブルドーザーの為の時』を貫き強く反射し、会場を移動する私たちの実際の鑑賞の仕草に影響を与えるだろう。これらの作品の間には、アマルガム的ともいうべき奇妙な焼き物『柔らかい建物、硬い土』(2024年)が設置されており、そこには「焼き物は人類が最初に作った産業廃棄物」であるとの説明が付けられている。 Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『柔らかい建物、硬い土』(2024年) 『柔らかい建物、硬い土』の寡黙な――つまり焼き物という存在が持つ時間に対する頑強さは、その周囲の、とりわけストリートの素材についてまわるある種饒舌な作品との違いを明らかにすることでストリートVSコンテンポラリーといった二項対立を解除しつつ、作品