日本人映画監督の是枝裕和は昨年、
カンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞した傑作『
万引き家族』
を世に送り出した。表面上は、
捨てられた子どもを見つけた万引き犯がその子どもを家に連れ帰り、実の親が
接していたよりも家族らしく扱うというストーリーだ。
是枝の新作『
真実』
は第76回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で上映され
、金獅子賞を競っている(2019年10月現在、映画『
ジョーカー』が受賞)。本作では、家族の関係が『万引き家族』
よりも一層率直に描かれている。
しかし子に与える親のダメージは同じように重要である。
もし是枝の新作というだけではワクワクできなくても、
母娘を演じるのがカトリーヌ・ドヌーブとジュリエット・
ビノシュという豪華な出演陣ということを知ったら胸が高鳴るかも
しれない。しかし残念ながら、
是枝もこの伝説のスターたちに影響を受けてしまったようだ。
いつもの支配と統制が本作では表れていない。
俳優たちは自分のペースでふるまい、
結果はニュアンスに富んだというよりも、
派手さを感じる演技となっている。
「
真実」をテーマとした本作に、
スーパースターをキャスティングしたのにはそれなりの理由がある
。是枝はドヌーヴとビノシュ、
アルコール依存症の夫を演じるイーサン・
ホークのスターの名声を用いて、
分かる人には分かるジョークを所々に挟んでいるのだ。映画『
8人の女たち』と『しあわせの雨傘』でフランソワ・オゾンは、
ドヌーブが自身を模倣するのを鑑賞する面白さを教えてくれた。
本作での冒頭の面白さを占めるのは、
ドヌーブの演技によるものである。冒頭部分で、
ジャーナリストがドヌーブにインタビューする際、
彼女が演じているのは自分なのか架空の役割なのか、
最初ははっきりしない。監督たちと寝たことや、
映画業界の指導者となったことなど、
ドヌーブの答えは自身の経歴に着想を得たもののようだった。
架空の映画や女優たちの名前を挙げた時、
ようやくドヌーブは登場人物のファビエンヌを演じていることが明
らかになるのだ。
ファビエンヌは自叙伝を書き、
ニューヨークを拠点としているシナリオライターである娘のリュミ
ール(ビノシュ)を招待し、
パリでの出版記念イベントに出席する。
娘とその家族はインタビューの最中に到着し、
そこでファビエンヌは、ホーク演じる夫が「俳優」
を名乗っていることをあざける。
ホークはこのささるような冗談に耐えることでノリの良さをアピールするが、これはいかにも彼らしい。
しかし残念ながら、
映画のユーモアは軽いからかいを超えることはない。
本作が脱線するのは、是枝監督が物語にペーソスを加えるために、
ビノシュ演じるリュミールを舞台の中心に据えるときである。
リュミールはいくつかの感傷的な発見をする。
彼女の母は実はひどく残忍ではなく、
おそらく彼女自身の記憶がゆがんでいるといった発見である。
幸福感にあふれたトーンが鑑賞する側の神経に触る。
映画界の権威ある賞の何が素晴らしい監督に、
自然な得意分野を捨て、
審査員が好む傑作を作ろうとさせるのだろうか。たいてい、
彼らは失敗に終わる。映画『別離』でオスカーを受賞し、
その後の『ある過去の行方』がカンヌで酷評を受けたアスガル・
ファルハーディがその好例だ。是枝の『
真実』は、
少なくともある一定の水準は満たしているだけ、
まだ良いと言える。
原文:
Kaleem Aftab2019年10月11日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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