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ジョージ・ミラーが監督した映画『マッドマックス』シリーズ第4作は終末の世界を描いたパンクな物語であり、茶会に襲いかかる竜巻のような仕上がりだ。重みの感じられない映画が溢れる時代の中、今作は、1億5,000万ドルの制作費をナミブ砂漠まで持ち逃げし、身代金をかけられた人体が切断されてハリウッドに送りつけられてきたかのようだ。
メル・ギブソン演じるマックス・ロカタンスキーが『マッドマックス/サンダードーム』で地平線の彼方に走り去ってから30年が経つが、「ロード・ウォリアー」は1日たりとも年をとっていないようだ。ギブソンのマックスは不本意ながらカリスマになっていく人物だったが、今作ではトム・ハーディが生き生きと演じている。そして、マックスが放浪する荒れ地にも多くの変化が見られる。前作までは荒廃した瓦礫の世界が舞台だったが、今回の過度なまでに飽和したカラフルな世界は、旧文明のたそがれというよりも新たな文明の幕開けに近い設定となっている。
物語は、住民を燃料のように消費する社会を牛耳る生まれながらの怪物、イモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)が支配する山あいの要塞から始まる。女性は母乳を搾り取られ、少女たちは子作りのために囲われ、マックスのような男たちは「ブラッドバッグ」と呼ばれて車の飾りにされている。当然のことながら、ジョーを補佐している片腕の将軍フュリオサ(シャーリーズ・セロン)は変革を望んでいた。彼女は囚われていた女性たちを解放して車で逃走するが、その後をイモータン・ジョー率いる命知らずの軍団に追われることとなる。そして、映画全編で狂気の死のレースが繰り広げられる。
テリー・ギリアムの身を切るような映像宇宙と、ジェームズ・キャメロンの爆発的な壮麗さを合体させたミラーは、爽快感の連続するアクションを作り上げた。しかし、このねじれたメタル交響曲の鍵となっているのは、暴力が狂気の一種であることを忘れていない点である。ミラーの世界では人間の最も本能的な姿がさらけ出されており、抑圧される女性の姿は繰り返し語られてきたモチーフでもある。そして、セロン(フュリオサ)にハンドルを握らせることで、男臭いこのヒットシリーズを見事に新たな方向へと導いた。男が自分たち自身からの救いを求める時代に、女性による支配の必要性について神話的な描写をしているのだ。 それがマックスが不滅のヒーローとなっている理由でもある。彼は、沈む太陽に向かって走り去るべきタイミングを知っている。多くのヒット映画が彼の巻き上げた埃にむせることになるだろう。