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ひとまず、ヒップスターが闊歩するブルックリンのイメージは忘れてほしい。映画『ブルックリン』は、1952年のニューヨークを舞台に移住問題を描いたコルム・トビーンの小説を映画化した作品で、アイルランド出身のジョン・クローリーが監督を務めた。本作は単なるノスタルジックな作品ではなく、登場人物たちが倫理的なジレンマに立ち向かい、新たな自分に目覚める物語を描いている。
主人公を演じたのは、21歳のシアーシャ・ローナン。映画『つぐない』でいきいきとした目をした10代の少女を演じた彼女は、表現豊かな女優に成長しつつある。彼女が演じるエイリシュは、アイルランドの田舎に退屈しながらも、ニューヨークでの新生活や将来に不安を抱えていた。親切な神父(ジム・ブロードベント)が高級デパートでの仕事を紹介するが、母親と姉を故郷に残してアメリカに渡った彼女は悲しく孤独な生活を送る。そして、物語はホームシックを乗り越えて自信を開花するように進展していく。
ニック・ホーンビィが脚色を抜かりなく手がけており、エイリシュは徐々に2人の男性との複雑な関係に陥る。1人は、彼女に恋をしてロングアイランドでの2人の将来を夢見るイタリア系アメリカ人の配管工、トニー(エモリー・コーエン)。もう1人は、祖国に緊急帰国した際に会った、まさに故郷を離れる前に出会いたかったタイプの男性、ジム(ドーナル・グリーソン)。彼女の未来は突然明るく輝き出し、どこにいようとも故郷が持つ微妙な引力によって恋愛の三角関係が加熱していく。その葛藤は非常に素晴らしく、映画には十分過ぎるほどに描かれており、シアーシャ・ローナンは観客にあらゆる心の痛みを感じさせる。
2016年7月1日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
テキスト:JOSHUA ROTHKOPF
翻訳:小山瑠美