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「ハリウッドで成功したほとんどの人々が人間としては落伍者である」と言ったのはマーロン・ブランドだった。セレブ俳優たちは、名声が消えてしまったらどうなるのだろう。本作は、かつてメガヒットを飛ばした俳優がスターバックスに行き、自分でコーヒーを買うほど謙虚になったようなこと描いた訳ではない。『バードマン』は、ニューヨークを舞台に繰り広げられる、滑稽で、不思議なほど愛らしく、それでいて悲しい物語で、マイケル・キートンに向けた重要な問いなのである。脚本と監督を務めたのは、映画『バベル』、『21グラム』を監督したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥだ。
キートンは90年代初期のアベンジャーズよりもさらに前の時代遅れのスーパーヒーロー映画『バードマン』で大ヒットし、荒稼ぎしたリーガン・トムソンを演じる。(これはキートンのバットマン時代と重なっている)リーガンは、人生の第2幕をシリアスなアーティストとして生きようと、レイモンド・カーヴァーの短編小説をブロードウェイで上演するために奮闘しているのだが、リーガンの心の中にいるバードマンは彼の計画をゴミ扱いし、リアリティ番組を制作するほうがマシだと言う。 シリアスなストーリーに聞こえるが、コメディー映画なのだ。
劇中では、イニャリトゥによって切り取られるカメラワークの小回りがよく利き、舞台制作の映画としてもシンプルに面白い。エドワード・ノートンがエマ・ストーンに、もし彼女の身体の一部を自分のものにすることができるなら、彼女の目を選ぶと言う。そして、20歳の目で再びニューヨークの景色を見てみたいと。このシーンはずば抜けて感動を誘う瞬間であった。そして、夢のようなキャスティングのなかで、キートンは最高の演技を披露していた。彼は恐れ知らずで、不安な表情を作るために平気で顔を痙攣させることができるのだ。この映画のサブタイトルは「無知がもたらす予期せぬ奇跡」だが、善き父になろうとするときですらリーガンは自分のエゴを超越することができないでいるという、残忍な真実がこの映画にはあった。
監督イニャリトゥの作品にはいつもダークな側面がつきまとう。(『アモーレス・ペロス』、『バベル』を観てほしい)今回もそのダークな部分はあり、人生は失望の連続なのだということを教えてくれる。この映画はいつまでも印象に残り、どこまでも脱線していき、どこか親密で、不規則に広がる。即興的なジャズのスコアがそれを聞いている人をリズムのなかにどんどん巻込んでいくように続いていくのだ。この映画が終わると同時に、あなたはもう一度観たくなってしまうだろう。
テキスト:CATH CLARKE
翻訳:平塚真里
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