レビュー

バンコクナイツ

4 5 つ星中
テーマは娼婦、楽園、植民地。アジアのリアルを映し出す
  • 映画
  • お勧め
Mari Hiratsuka
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タイムアウトレビュー

夜の街を駆け抜けるトゥクトゥク、きらめく歓楽街。バンコク独特の熱気とイサーン地方の穏やかな空気を含んだ本作は、映画『サウダージ』などで知られる、映像集団「空族」の富田克也と相澤虎之助が10年の構想を経て完成させたロードムービーだ。

タイのタニヤ通りという、実存する日本人専門の歓楽街で娼婦として働く主人公のラックと、日本に居場所を失くし、タイに渡った元自衛隊員のオザワが再会し2人の物語は動きだす。『サウダージ』に続き本作も、現地の人々を役者として起用しており、監督の冨田は信用を得るために何度もタニヤを訪れた。そして、カメラが入り込むことは困難と思われていたタニヤのホステスクラブや、そこで働く女性たちが本作には登場している。

物語はバンコクから、ラックの故郷であるタイの北部イサーンへと移り、ラオスの山岳地帯に到達する。このオザワとラックの旅を通して、ベトナム戦争の傷跡や、この国の悲しい歴史が映し出されていく。また、作品のキーとなるラオスやイサーン地方に伝わるタイの伝統音楽「モーラム」が場面を彩る。音楽の監修には、アジアの音楽を紹介するイベントなどを開催している、DJユニットSoi48が担当。そのほかにも、1970年代にタイの学生運動のなか結成された、フォーク・バンド「カラワン」のリーダー、スラチャイ・ジャンティマトンや、人間国宝となったモーラム歌手のアンカナーン・クンチャイが出演しており、アンカナーンがラックに語る言葉が歌になっていくシーンは印象深く、モーラムの素晴らしさを感じられる。

空族による、アジア裏社会をテーマにした映像作品三部作の最終章となる『バンコクナイツ』。「外から見れば楽園、なかに入るとそれは変わる」というセリフがあるように、外からでは知り得ない、タイの内側に寄り添った現実を見ることができるだろう。そして空族が案内するこの楽園を一緒に旅してほしい。

公式サイトはこちら

2017年2月25日(土)テアトル新宿ほかロードショー、『KUZOKU SAGA~空族サーガ~ 空族全作品特集上映』は2017年3月4日(土)より新宿 K's cinemaにて開催。

 (c)Bangkok Nites Partners 2016

テキスト:平塚真里

リリースの詳細

  • 上映時間:180 分
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