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セルゲイ・ポルーニン(Sergei Polunin)の踊る姿は、重力から解き放たれたかのようで、観客を別世界へと誘う。しかし彼は、「バレエを選んだわけではなく、これが自分なんだ」と語る。バレエ界きっての異端児の素顔に迫ったドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』は、ポルーニンの葛藤が中心に映し出された、重々しくありながらも感動的な作品だ。
ポルーニンは、全身に施したタトゥーや、パーティー三昧の日々、ドラッグの使用、イギリスのロイヤル・バレエ団で史上最年少のプリンシパルとなった後に電撃退団するなど物議を醸した人物。本作
彼の家族は、バレエこそ母国ウクライナから羽ばたく道を開くと考え、経済的にサポートするために離れ離れになって世界各地に出稼ぎに出る。しかし、笑顔で楽しく踊っていた天才バレエダンサーは、ロンドンで孤独な特訓を続ける10代の問題児となり、呪縛に囚われながら荒廃した人生を送るひねくれた20代の男へと変化を遂げる。大人へと成長したポルーニンだが、かつて彼は成
本作では、歌手ホージアのグラミー賞ノミネート曲『Take Me To Church』に合わせて、ポルーニンがもだえ苦しみながら激情に満ち溢れたダンスを踊る姿を映し出す。このミュージックビデオはネット上で話題になったが、彼にとって最後のパフォーマンスになるはずであった。しかし結局そうはならなかった。それはつまり彼の苦悩は終わらないということでもある。
翻訳:小山瑠美