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スティーブ・ジョブズは、驚くほど成功を収めた天才だ。そして、他者の感情が自分の行く道を邪魔をしたとしても、決して弱気にならない誇大妄想狂でもあった。本作も、二重人格に少々悩まされている節がある。脚本家のアーロン・ソーキンが映画『ソーシャル・ネットワーク』をしのぐ鋭い切り口で残酷な脚本を描いている。その一方で、ダニー・ボイル監督は秀逸であろうとして時折失敗しているのだ。
本作は、3部構成で「新作発表会の舞台裏」が描かれる。第1部は1984年に初めて『Macintosh』を発表する本番30分前の舞台裏を、完璧な脚本で描いていた。マイケル・ファスベンダーがまるでとぐろを巻いてガラガラと音を鳴らすのを止めない蛇のようにスティーブ・ジョブズを演じている。この冒頭部では、マイケル・ファスベンダーがコンピューターおたくを演じるには筋骨隆々過ぎてリアリティに欠けるが、早口の台詞回しとともに一心不乱さを表現することで説得力を高めていた。
本番前の30分間に、プレゼンテーションで『Macintosh』に「ハロー」と挨拶させることに執拗なまでにこだわり、娘の認知を拒否する。そして、言葉のマッチに火をつけ、その炎は徐々に上司(ジェフ・ダニエルズ)、部下(マイケル・スタールバーグ)、ずば抜けた知的能力を持つ親友のスティーブ・ウォズニアック(セス・ローゲン)との関係性にまで燃え広がる。最も有意義なのは、事実上彼の良心の役目を兼ねるマーケティングマネージャー(ケイト・ウィンスレット)との対立だろう。
第2部は1988年へ飛び、スティーブ・ジョブズの失敗作『NeXT Cube』の発表会の舞台裏へ。そして最終章では、10年後の『iMac』がデビューするまでの道のりが描かれる。この頃にはもうマイケル・ファスベンダーがスティーブ・ジョブズに生き写しだ。しかし、マイケル・ファスベンダーの驚異的な演技も、ダニー・ボイル監督が自分の首を締めるのを救えなかった。おそらく本作のストーリーを描くには、お人好し過ぎるのだ。ダニー・ボイル監督の感傷的な衝動で2時間近く追いつめられた後、感傷主義が完敗するかたちで終わりを迎える。
2016年2月12日(金) TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
テキスト: DAVID EHRLICH
翻訳:小山瑠美
(C)2015 Universal Studios