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ルシール・アザリロヴィック監督が描いた、忘れがたいほど奇異な物語の舞台となったのは、フランス沖のどこかにある人里離れた島だ。その島では、白い眉と黒い瞳を持った女性たちが少年たちを育てており、父親たちはどこにも見当たらない。昼には少年たちが珊瑚礁の広がる海へ泳ぎに行き、夜になると母親が彼らにドロドロに凝固したイカ墨のような液体を食べさせ、痩せ細った腕に薬と称する催眠作用のある粘液を注射する。ある夜、好奇心旺盛な少年ニコラ(マックス・ブラバン)は、なんとか投薬に耐え、母親(ジュリー=マリー・パルマンティエ)と暮らす質素な家から抜け出す。そして、彼が母親を追って海岸に出たところから、すべては奇妙な方向に進み始めるのだ。
少女たちの世界を描いた映画『エコール』を発表してから10年たったが、ルシール・アザリロヴィック監督は、まるでその間ずっと悪夢を溜め込んでいたかのように思える。長時間にわたる言葉のない静寂、恐怖をともなう緊迫、抽象的な映像美が描かれる本作には、ニコラが夜に抱く好奇心と、我々に根付いた原始的な不安をもって、その暗く神秘的な世界を見つめていた。物語の大筋が理解しやすく描かれながらも、美しい海の映像とデヴィッド・クローネンバーグ的なボディホラーが渦巻くなかで、そのドラマチックな質問に対する答えは海底に沈んでいく。
もし本作のテーマに一貫性があるとすれば、ルシール・アザリロヴィック監督が自律性を持つ男性の身体を裸にする傾向だろう。女性のキャラクターは、いわゆる意図を隠し持つ妖婦であり、夫や息子が感じる一般的な不安から生まれている。出産の不安というものを本来は無視する余裕があるべき性別に強制させることで、最もおぞましい場面が描かれていた。本作で遠回しに描かれるのは、想像と現実の境界が曖昧で、自分が理解できないものはすべて素晴らしいと同時に恐ろしいと感じた幼少時代への回帰だろう。
2016年11月26日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開
テキスト:DAVID EHRLICH
翻訳:小山瑠美