本作の冒頭で、性交時の音声に乗せて暗闇のなかに、クレジットが表示されると、これからポール・ヴァーホーヴェン(Paul Verhoeven)の作品を鑑賞するのだと改めて思わされる。常識を超えた領域に踏み込み、大くの映画監督が恐れる場所にあえて突き進んだ本作は、これまでで最もヴァーホーヴェンらしい作品かもしれない。やはり彼は映画『氷の微笑』や『ショーガール』などを世に送り出した男なのだ。
映画『ベティー・ブルー』の原作者としても知られるフィリップ・ディジャン(Philippe Djian)小説『Oh...』が原作となっており、デヴィッド・バーク(David Burke)が脚本を手掛けた。そして、取っておきの切り札として、パリでゲーム会社の社長を務めるミシェルをイザベル・ユペール(Isabelle Huppert)が演じている。冒頭で耳にした性交中のうめき声は、彼女が自宅のリビングでスキーマスクを被った男に襲われた場面だ。レイプされたミシェルは警察に通報せず、自ら犯人を探し始める。大量殺人者の娘である彼女はすでに苦労の多い人生を送っており、メディアや大衆から軽蔑されて育ってきた。
本作には少なくともコメディとミステリー、複雑な心理描写と3つの要素がある。まずミシェルの息子と母親、元夫、お互いのパートナーを巻き込んだマナーをテーマにしたコメディ映画であるということだ。優雅なディナーパーティーが開かれ、ミシェルが女優ライザ・ミネリ(Liza May Minnelli)のような母親の若い愛人の男の名前を忘れるシーンなど、心に残る瞬間の数々が描かれていた。ミシェルが周囲の男性を冷静に調査し、犯人かどうかを突き止めようとするシーンでは、洗練されたスリラーのようで、覆面の男が姿を変えては現れるミステリー映画のようでもあった。
最後は、類まれなる女性の複雑な心理を描いた映画であることだ。これが最も魅力的な要素かもしれない。物語が進むにつれ、女性蔑視の問題や、心をかき乱すような挑発と見なされる危険な領域に深く踏み込んでいく。ユペールの落ち着いた多面的な演技には、純粋な才能と熟練した技能が見られ、3つ目の視点への支持を集めるのに一役買っている。本作をどのように捉えようとも、今後何十年にもわたり議論される作品である。
原文:CATHERINE BRAY
翻訳:小山瑠美
2017年8月25(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国公開
公式サイトはこちら