映画『ウィッチ』は、アメリカ人監督ロバート・エガース(Robert Eggers)が難解な分野に臆することなく挑戦し作り上げた、刺激的かつ不気味な長編デビュー作だ。清教徒に伝わる残酷な民話をベースにしており、セリフの大半は17世紀の書物からそのまま引用されている。本作は、大胆に観客の不安を煽る、近年まれに見る実に不気味なホラー映画だ。
物語の舞台は1930年のニューイングランド。敬けんな清教徒の一家がイギリスからニューイングランドへ移り住んでいたが、宗教上の信念の違いに対する処罰としてその地を追われることになる。その結果、邪悪な森のそばに広がる荒れ地での生活が始まることに。新天地ですでに除け者にされていた木こりのウィリアム(ラルフ・アイネソン)だが、妻(ケイト・ディッキー)と5人の子どもたちと、新たな人生を始めるために厳しい自然や荒れ地と闘いながら孤軍奮闘する。しかし、子どもたちが生活に慣れて神とのつながりを再び得る前に、乳児が超自然的な速さで森のなかに連れ去られてしまうのであった。
大半の映画では、そこから観客との控えめな戯れが始まり、フィナーレまで恐怖と不協和音に満ちた音楽を背景に怪物が現れるだろう。本作では、急に恐怖が襲いかかるようなシーンはほとんど存在しない。スイス製時計のように精巧に計算され、観客を引き付けることと疲労させることは大きな相違があると理解している。作中で絵画的に描かれる魔女がしわだらけの裸体を晒(さら)す姿は、まるで画家フランシスコ・デ・ゴヤによる作品『我が子を食らうサトゥルヌス』のようであった。低予算で奇跡を起こす美術監督でもあるエガース。素晴らしい技術をまだ隠し持っているかもしれないが、作品を通して存分に才能を知らしめている。
本作ではスタンリー・キューブリックが持つ厳格さと、ニコラス・ローグ(映画『地球に落ちて来た男』など)が持つ性心理的な信念による不道徳な融合のようなものが描かれていく。ラルフ・アイネソン(Ralph Ineson)とケイト・ディッキー(Kate Dickie)は、疑心暗鬼になって子どもへの愛が薄らいでいく、欠陥を持った(役立たずですらある)両親として苦悩する。長男役のハービー・スクリムショウ(Harvey Scrimshaw)は取り憑かれた演技を披露し、思春期の姉を演じるアニヤ・テイラー=ジョイ(Anya Taylor-Joy)は天啓にうたれながら、悪魔が彼女の身体の中心からねじり出てくるかのように皮膚を泡立たせ、血まみれになっていた。
エガースは厳格かつ緊密に物事を描きながら、様々な光景や言葉から新しいテーマを提示し、怪物と心を通い合わせるような宗教的な熱情を円滑に描き出していた。曖昧な表現をしながらも、視聴者から敬遠されるのを抜かりなく避けている。登場人物への審判は、天から下ることはない。その代わりに、罪を負わずに生きたいという衝動がいかに潤滑油になりうるかということを熟考している。近年センセーションを起した映画『キル・リスト』や『ババドック~暗闇の魔物~』に並ぶホラー映画史における重要作だと言えるだろう。
原文:DAVID EHRLICH
翻訳:小山瑠美
配給:インターフィルム
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