アーネスト・クラインが発表したSF小説『ゲームウォーズ』は、ポップカルチャーの引用と派生的な構想をまとめた、ウィキペディアに値する作品だ。スティーブン・スピルバーグが映画化した『レディ・プレイヤー1』は、楽しいが、記憶に残らないような作品である。CGを多用したメドレーのようで、観客を驚かせながらも、軽率なところがあり、いまひとつキャラクターをいかしきれておらず、観客の感情をわしづかみにするわけではない。
最先端にアップデートされた映画『トロン』と同様で、物語の主な舞台は人工知能の世界だ。すべての夢が実現するVRワールド「オアシス」には、2045年の荒廃した世界に暮らす虐げられた人々が、中毒のようにアクセスしていた。主人公は、両親を亡くした10代の少年ウェイド・ワッツ(タイ・シェリダン)。彼は「パーシヴァル」というアバターの姿となり、オアシスの創設者が残した1980年代に関連する謎を探そうとする。政治的な計略のもとで、彼は頑固な政治的ハッカーの「アルテミス」(オリビア・クック)と協力することに。そこへ、巨大企業に所属する悪役ノーラン・ソレント(ベン・メンデルソーン)が、うわべだけの巧みな言葉で熱心に働きかけてくる。
スピルバーグにしては珍しく、映画『E.T.』でのエリオットの空飛ぶ自転車や、『ジュラシック・パーク』での恐竜のお披露目のような、感情に訴える装飾はなく、その代わりにVFXのバーチャル映像による多幸感が満ちていた。スペクタクルにあふれる本作では、1980年代や1990年代の作品へのオマージュが多く詰まっている。オアシスが初めて映し出される場面では、大暴れする映画界のモンスター(キングコングや、『ジュラシック・パーク』のティラノサウルスなど)の襲撃によって絶え間なく風景が変わるニューヨークの街を、猛スピードで走行するレースが描かれる。パーシヴァルが乗車する映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンをはじめ、『特攻野郎Aチーム』のバンや、『マッドマックス』のインターセプター、『AKIRA』の金田のバイクなど多数の乗り物も登場。終始にわたって熱狂が描かれ、高揚感が延々と続くので、複雑な部分も乗り切れるはずだ。
本作は、かつてゲーム『ストリートファイターII』に小遣いをつぎ込んだ人や、俳優アダム・ウェストが乗車するバットモービルをおもちゃ箱にしまっていた人のための、巨大な『ポケモンGO』ゲームとして鑑賞するのが最良だろう。隠されたオマージュを見つけることが楽しみの半分かというと、そうではない。巨匠がほかの監督による大ヒット作を描くという最高の興奮と感動を味わえる。