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本作は、映画『ドライビング・MISS・デイジー※1』とは逆のような設定で、使い古されたステレオタイプの登場人物が人種差別の色濃いアメリカ南部を巡るロードムービーである。意外かもしれないが、彼らは実在の人物であり、1962年に起こった実話が元になっている。ヴィゴ・モーテンセンが演じるトニー・リップ・バレロンガは、ガサツな人種差別主義者で、ニューヨークのナイトクラブの用心棒として働いていた。仕事を探していたところ、几帳面な黒人ジャズピアニストのドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)に誘われ、あるライブへ足を運ぶことになる。ドンは差別の色濃い南部での演奏ツアーに同行する屈強なドライバーを求めていたのだ。トニーは情に流されたわけではなく、仕事に見合った金額を稼ぐために、プライドを捨てるのをいとわなかった。
※1『ドライビング・MISS・デイジー』1989年製作のアメリカ映画。ブルース・ベレスフォード監督による、アメリカ南部を舞台にしたハートウォーミングストーリー。
天才ピアニストと白人ドライバーという2人の俳優の役柄は、意外なニュアンスを感じられ、対称的なキャラクター。彼らは広々としたキャデラックの車内を、リラックスした冗談を言い合うステージへと拡大させたのだ。本作の監督を務めるピーター・ファレリーは、弟ボビーと共に『メリーに首ったけ』と『ジム・キャリーはMr.ダマー』を手掛けた人物。本作の馬鹿馬鹿しさや愛情あふれるシーンは、ファレリーならではの作風だろう。
映画のタイトルとなった『グリーンブック』は、アフリカ系アメリカ人の運転手が、危険な地域(リンチ殺人などが起こる)でトラブルを避けるために携行するガイドブックのこと。同書をタイトルに冠した本作は、ファレリーがこれまでに手掛けたコメディ映画よりもはるかに風格のある作品だ。映画『ミシシッピー・バーニング』と同様の真剣さをもって、ダークサイドが描かれる場面では、主役の2人を抱きしめたくなるだろう。ライブツアーの最中、偏見に直面していく彼らの変化が静かに描かれているシーンは、洗練すら感じられる。もしかすると見逃されてしまうぐらいかもしれないが。人間はより良い方向へ変われることを信じられる作品だ。
2019年3月1日(金)より全国公開