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主人公は、陽気で人好きのする女子高生、森川ココネ。彼女には眠りすぎてしまうという困った癖があった。寝ている間に見る夢の世界では、ココネはエンシェンという、魔法のタブレットを持つ勇敢で冒険心旺盛なプリンセスとなる。そしてある日、父親が突然逮捕されてから、ココネが目覚めている時の現実の世界は、夢の中と同じように驚きに満ちたものへと変わる。
これまでの作品と比べるとはるかにわかりやすい(万人受けする)今作『ひるね姫』は、監督にとって明るい未来が開ける新たな一歩となるだろう。監督は過去の作品ですでに使われたテーマを織り込んでいる。並々ならぬ愛情が見て取れる、球根のようなデザインのロボットは『攻殻機動隊』を彷彿とさせ、また『東のエデン』に見られた情報システム基盤のハッキングも出てくる。しかし、本作ではありがたいことに、こうした専門的な要素がファミリー向けにわかりやすく作られている。
ビジュアルについて言及すると、田舎の単調な生活や安アパートと、どこまでも続く夜の空と夢の世界を彩る灯りを対の関係に置き、彩度と色相のコントラストがとても効果的に用いられている。相当な労力が作画に注がれていることが見て取れ、熟練した職人が率いる優れたチーム力で成し遂げられたことが分かるだろう。ありえないほど詳細に作りこまれたエスタブリッシングショットと、息をのむようなペースで繰り広げられるアクションシーンが更に画面に彩りを与えている。
音響は、優れた音声設計と、『ファイナルファンタジー』と『キングダムハーツ』の作曲者、下村陽子による素晴らしい動的な楽譜により綺麗にまとめられている。 ジブリ風のピアノ曲が茶目っ気のあるファゴットの曲と組み合わされており、アクションシーンでは激しいストリングアンサンブルが物語を更に盛り上げている。
ココネはとても好かれるタイプなのだが、それは高畑充希による微妙なニュアンスの歌声による部分も大きい。降りかかる困難にもかかわらずココネは立ち直りが早く、自信のある女の子のように生き生きと描かれている。ほかのキャラクターも思い切ったキャスティングをしており、個人的には役同様魔法使いのように優れた声優、高木渉(『ジョジョの奇妙な冒険』の虹村億泰役)の参加は特にうれしかった。
この映画に欠点がないわけではない。 わき筋には薄っぺらなものが見受けられ、もしより効率的な物語運びを追求するためにメインのシーンがカットされていたらどうなるだろうと思ってしまうかもしれない。脚本も少々物足りない。 2つの世界をまたぐ話は常に難しさがつきまとう。不思議の国のアリスでは、まず読者をウサギの穴へいざない、最後は現実世界へ連れ戻すことでそのバランスをうまく取っているのだが、この映画では空想世界との行き来はもっと思い切って実験的なシーンの切り替えがあったほうがうまくいったかもしれない。
にもかかわらず、この映画はその目的を達成している。これが観客に響く面白いアドベンチャーアクションたる所以は、すべてを美化してはいないからである。この映画を見た後に温かい気持ちになるのは、完全とはいかない家族愛の表現に何かが存在するからだと思われる。
結局のところ、ひるね姫は感動的でワクワクするようなアドベンチャーである。 脚本にあるいささか観客を立ち止まらせる要素にも関わらず、観客になぜか温かい気持ちを残してくれる映画作品となっている。
2017年3月18日(土)全国ロードショー
原文:ジョージ・アート・ベイカー